滑落から1週間。74歳の男性は、沢の水とチョコレートで命をつないだ。富山県警黒部署は20日、富山・長野県境の北アルプスで13日から行方が分からなくなっていた広島市安佐南区、アルバイト筒井清之さん(74)を発見し、救助した。衰弱しているが、命に別条はない。筒井さんは雨ガッパで雨風をしのぎ、沢水を飲み、非常食のチョコレート数枚を小分けに食べて、救助を待っていたという。

 署によると、筒井さんは10日に新潟県糸魚川市から北アルプスの白馬岳(2932メートル)に入山。尾根筋に縦走し、12日に唐松岳(2695メートル)を経て、山頂近くの「唐松山荘」に宿泊した。13日、山荘から祖母谷温泉まで行く予定だったが、13日午後4時ごろ、同温泉近くの南越沢の斜面で約10メートル滑落、遭難した。

 14日に下山の予定だったが、連絡が取れず、家族が18日に警察に届けた。署は20日に捜索を開始。ヘリで捜索していた隊員が午前9時ごろ、タオルを振っている筒井さんを発見した。筒井さんは、滑落した斜面が急勾配だったため「登れないと思い、じっとしていた」と話しているという。

 筒井さんが12日夜に宿泊した唐松山荘によると、山荘から祖母谷温泉までは約12キロ。しかし、「標高2600メートルから急勾配の山道を下りた大黒銅山を過ぎ、餓鬼山(2127メートル)を300メートルほど登り直してから、標高900メートルほどの祖母谷温泉まで下りるルート。平均で9時間かかり、途中の避難小屋に泊まる人もいる」という。南越沢もぬれた土の急斜面で滑りやすいといい「無事で良かった」と胸をなで下ろした。

 捜査関係者は「登山届にルートも明記してあり、滑落した場所で動かなかったことが早期の発見につながった」とみている。