「幸せを運んでくれてありがとう」-。平昌五輪(ピョンチャンオリンピック)フィギュアスケート女子で6位に入賞した坂本花織(17)。通っている神戸野田高(神戸市長田区)近くの商店街では23日、パブリックビューイング(PV)が開催された。坂本は阪神・淡路大震災を知らない世代だが、“神戸っ子”として震災の記憶を受け継いできた。メダルは逃したが、のびのびとした演技に神戸市民は「気持ち良かった。次につながる」と喜んだ。

 神戸野田高に近い「新長田1番街商店街」。近所の住民ら約100人が、テレビ画面を囲んだ。次々と繰り出されるジャンプやスピンを、ドキドキしながら見守った。のびのびした演技に「よくやった」の歓声を上げた。

 「気持ちがスカッとする演技だった。なぜか涙が出そうになった」。同商店街振興組合の木村繁一理事長(60)は、神戸市民の思いを代弁した。同商店街には「平昌オリンピック出場決定! 祝 坂本花織さん」と大きく記された横断幕が掲げられている。神戸野田高の生徒会のメンバーらと作った。

 2000年生まれの坂本は、95年1月17日に発生した震災を体験していない。両親と姉2人は当時神戸市北区に住み、大きな被害を受けなかった。それでも坂本家では、地震発生の1月17日午前5時46分に黙とうし、追悼の場の神戸市東遊園地を欠かさずに訪問している。記憶はなくても、震災は身近な出来事だ。

 神戸市営地下鉄新長田駅の改札近くの壁面には、坂本の赤ちゃんの時の手足形がある。20センチ四方の陶板に赤、青、緑色で焼かれた200枚のうちの1枚だ。01年に海岸線が開通する際、00年に生まれた神戸市内の赤ちゃんを対象に、手足形を募集した。沿線全10駅の壁面に、生年月日や家族からのメッセージとともに展示した。

 坂本の手足形は赤色で「突然舞い降りて幸せを運んできた花織 心も体も大きくなあれ!」と家族の思いが添えられている。坂本は現在、偶然にも、手足形が展示されている新長田駅近くの高校に通っている。

 演技が終わり、手形を見に来たという神戸市の村島範子さん(70)は「自分たちの子どもみたい。神戸の宝物です。4年後が楽しみ」。大舞台での演技は、神戸市民に「幸せ」を運んだ。【松浦隆司】

 ◆阪神・淡路大震災による神戸市長田区の被害 猛火に襲われたこともあり、被害が特に大きかった。死者は約900人。JR新長田駅南の若松公園では、復興の願いを込めて、巨大モニュメント「鉄人28号」を建設した。震災全体では死者6434人、建物全壊約10万5000棟という大惨事だった。