「時の人」岡田晴恵教授の歩み/プロに聞く

少女時代について語る白鴎大教授の岡田晴恵さん(撮影・管敏)

新型コロナウイルスの感染が世界に広がった2020年。テレビで見かけない日はないほど連日の出演で、感染症について分かりやすく説明し、時に政治や行政に厳しくもの申してきた白鴎大学教授の岡田晴恵さん。今回は専門の話題を離れて、文学に親しみ、原辰徳に胸をときめかせた少女時代を語った。【秋山惣一郎】

-子供のころは文学少女だったそうですね

岡田教授(以下、敬称略) 母がとても教育熱心でして、外へ遊びに行くのもダメ、テレビもダメ、勉強しなさい、本を読みなさいと厳しく言われていました。家には蔵書がたくさんありましたし、学校の図書館でも借りて、2日に1冊ぐらいでしょうか、ずっと本を読んでいました。それが当たり前の生活でしたね。

-印象に残っている本はありますか

岡田 私が小3のころだったと記憶します。「小さい魔女」というドイツの児童文学がとてもおもしろくて、夢中になって読みました。初めて自分で選んで好きになった作品で、読書熱が高じるきっかけになりました。幼い魔女の楽しい成長譚(たん)ですが、物語の背景には欧州に吹き荒れた魔女狩りがあり、反差別の意見表明とも読み取れます。私は読書を通じて、いろいろな時代のさまざまな人生を体験しました。中学生のころには、文学は単なる物語ではないことを理解するようになっていました。物語の背景にある哲学や反骨精神まで読み取ることができたのかもしれません。

-なのになぜ、理系の学問を志したのですか

岡田 母から手に職をつけなさい、と言われていました。先生も「文学部に行けば?」と言っていましたね。母は「うちは大学までが義務教育です」と公言していて、私の人生も決めていました。

-いわゆる「理転」に違和感はありませんでしたか

岡田 文学のテーマは、たいてい人の苦しみです。貧困、病気、死…。幸田文の「おとうと」や堀辰雄の「風立ちぬ」は結核が主題になります。宮尾登美子の「櫂(かい)」にはスペイン風邪についての描写があります。ドイツの詩人、ハインリヒ・ハイネは梅毒の病床でも美しい詩を書いています。どれも意義深い作品です。感染症が人を苦しめ、人生や社会、文化に多大な影響を与えてきた、と読書を通じて知りました。病とは何なのか、病とどう戦うのか、私の中では文学と医学の底流は同じです。

-本を読むことは大切なんですね

岡田 国語力の高い学生は学習能力が高い、と同僚の教育学部の教授が言っていました。読解力は、物事を理解する基本だからと。私もそれは感じます。私は大学で教養の特講の講義も行っていて、文化史や社会学、歴史や人物史などウイルスや感染症学とは関係ないことも教え、たくさんの本を紹介しています。活字離れと言われますが、若い人たちにはぜひ読書を、と勧めています。

-野球への愛の深さも知られています

岡田 空いていれば、白鴎大学の野球部の試合はよく見に行きます。先日、部員が日本代表に選ばれて、おでんを作って差し入れたり。「すごくおいしかった」って伝言をもらいました。プロ入りした教え子の活躍も楽しみです。阪神に行った大山悠輔君は、来季の主将に指名されましたね。オリックスには大下誠一郎君もいます。応援してます。

-野球は昔から好きだったのですか

岡田 子供のころ、テレビを見せてもらえなかったので、ラジオを聴いていました。普段はNHKの基礎英語などですが、夏は本を読みながら高校野球。野球っておもしろいなと思いました。当時、活躍していたのが東海大相模の原辰徳さん。ラジオで聴いていたのでお顔は後に知りましたが、すてきですね。

-お花も好きだそうで

岡田 バラが好きです。バラは手入れが大変なんですが、今年は忙しくて十分にできなかった。でもクロードモネという品種が大輪の花をつけました。皇帝ダリアも美しく咲いていますよ。パンジーやチューリップも。庭を見た中学生ぐらいの女の子から「きれいですね」って言われて、母が喜んでいました。お花が咲くと、若い人も高齢者もみんなうれしい、明るくなります。

-新型コロナウイルスの感染拡大が懸念される冬へ向けて一言いただけますか

岡田 政府の方針で、高齢者や基礎疾患のある人、医師が入院が必要と認める人以外は、自宅などで療養することになりました。自宅でどのように療養するか、家族に感染を広げないためにどうするか。「新型コロナ自宅療養完全マニュアル」にまとめましたので、ぜひ参考にしてください。

◆岡田晴恵(おかだ・はるえ)白鴎大学教授。専門は感染免疫学、ウイルス学、児童文学。国立感染症研究所、経団連21世紀政策研究所などを経て現職。感染症対策の専門家として、放送、出版など幅広いメディアを通じて発信している。著作は専門書から絵本、小説など幅広く、「病気の魔女と薬の魔女」「新型コロナ知る知るスクール」など多数。