ピョンチャン五輪、フィギュアスケート男子シングル競技が終了しました。競技を観終えて感じたことは、どの選手にも充実のときが流れていたな、ということです。

 4年前のソチ五輪では、優勝した羽生結弦選手も、準優勝となったパトリック・チャン選手もベストのパフォーマンスではなく、厳しいシチュエーションの中で踏みとどまったという印象が強くありました。その他、後半グループで滑った選手の多くにもミスが目立ち、4回転時代といわれながらも、4回転以外のミスや出来栄えが勝敗を分けていたのが実情です。

 しかしながら、今回表彰台を決めた3選手、いずれにも満足そうな表情が見られたこと、それがなによりうれしかったです。

 優勝の羽生選手はけがを乗り越えての連覇、演技後に見せた喜びの姿は、この4年間自分を信じてきたことへの幸福感に満ちているようにも見えました。着氷をこらえながら演技を完成させていくさまは、彼の人並み外れた意志の強さと闘志そのものだと思います。

 2位の宇野昌磨選手、初出場で表彰台、素晴らしいです。冒頭のミスから引きずらず、全てのジャンプを回りきり、つなげきった、そんな努力こそがこの結果につながったのでしょう。

 彼は無欲でマイペース、そんな選手にも見えますが、自らのスケートに対する自負の思い、それを守るための努力というのは敬ってやまないほどのものがあります。

 羽生選手が周囲の期待に応えるために王者であろうとするならば、宇野選手は自分の理想に妥協をしないために最高を求め続ける。全く性格も、メンタルコントロールの仕方も異なるこの2人が、道のりや方法は違えど、今回同質の感動を演技から伝えてくれたことは感慨深く思います。フィギュアスケート、そしてスポーツ、ひいては全ての世界において、正解や正義は1つでないということを、今日のパフォーマンスから証明してくれたようなそんな気持ちです。

 3位のハビエル・フェルナンデス選手、銅メダル獲得おめでとうございます。4年前、わずかな失敗から4位となってしまった悔しさから、今回努力が実を結び喜びを分かち合ったファンも多いことでしょう。

 彼は、技術と芸術性の両立を常に守り、フィギュアスケートとはなんであるかということを示し続けてきた選手のひとりだと思います。演技終盤の「見果てぬ夢」のメロディーに乗せたステップシークエンスでは、まるでスケートへの慈しみがにじみ出すような世界観を創り上げていました。

 頂点に立ちながら自身の演技へのリベンジを求めた者、4年前に手にできなかった結果を求めカムバックした者、自らの理想を追い求め初めての舞台に挑んだ者、そんな三者三様のストーリーが、充実の笑顔とともにハッピーエンドで結ばれたこと、そのことがなにより素晴らしい出来事だったと思います。【川崎孝之】

 ◆川崎孝之(かわさき・たかゆき)1991年(平3)、愛知・半田市生まれ。安藤美姫をきっかけに、中学生からスケートファンに。19歳で編み出した陸上フィギュアスケートの活動が注目される。現在は氷上でのスケート練習に励み、大人からの選手デビューを目指している。