W杯アジア最終予選3月シリーズの2試合で、FW久保裕也(23=ヘント)が結果を出したことが、一番の収穫だろう。

 バヒド・ハリルホジッチ監督(64)が求めるサッカーの最も重要なポイントはサイドアタッカー。この日のシステムも通常通りの4-2-3-1と思う人もいるようだが、ハリルは4-2-1-3の認識で選手をピッチに送り出しているし、選手もそのつもりでプレーしている。ハリルの並びは両サイドの2人はサイドハーフではなく、サイドアタッカーである。

 サイドアタッカーの役目は、縦の突破から中央に良質のボールを供給してアシストを狙う、記録すること。あるいは逆サイドからのクロスに飛び込み点を取る、自ら中に切れ込んだり、相手DFの裏を取ってゴール前で得点を決めることだ。一般的なサイドハーフの仕事、例えばチャンスメークにより多くの時間を割くようなことを第一に求めているわけではない。これは、監督が就任以来、会見でも言っているし、選手にも何度も繰り返し、強調していることだ。

 久保はこの2戦で、監督が求めている通りの動きで得点とアシストを記録している。久保があのポジションにマッチする前は、本田が右アタッカーで起用されてきた。本田は中に切れ込んだり、クロスに合わせてで得点を量産したことが評価されてきた。実際に、ハリル・ジャパンでは最多タイの9得点を挙げている。久保は得点能力に加え、矢のように縦もえぐれるので、これから起用される機会は増えるだろう。彼らの今後の競争がチームの成長をさらに加速させる。

 久保には、リオ五輪で世界を経験させたかった。当時、FIFA(国際サッカー連盟)のルール上、日本サッカー協会に選手の拘束力はなかった。何度も交渉し、ヤングボーイズ(スイス)の了承を得て、欧州CL予選の翌日にブラジルへ出発する予定だった。しかし同クラブのFWがその試合で負傷し、クラブが久保の招集を拒否し、出場辞退となった。出発の2時間前に、クラブ幹部から言われてしまった。もし、クラブの決断が2時間遅くて、久保が飛行機に乗っていたら、五輪を経験できたはず。

 久保は日本代表では若手の部類に入るが、世界基準で23歳は決して若い年齢ではない。彼自身もそれは十分に分かっている。以前、スイスを訪れた時、休みの過ごし方を聞いたことがある。「自炊して、語学勉強して、テレビでサッカー見て、公園で1人でボール蹴ります。体のケアもします」との返事がきた。ストイックにサッカーと向き合う姿勢に、感心した記憶がある。

 W杯最終予選はあと3戦、さらにその先にはW杯本大会が控える。あと1年で久保はどれほど自分を伸ばしてくるだろうか。どれだけ数字を積み重ねるだろうか。楽しみが膨らむ。

(霜田正浩=日本サッカー協会・前技術委員長)

 ◆霜田正浩(しもだ・まさひろ)1967年(昭42)2月10日、東京・豊島区生まれ。都立高島高卒業後、カズ(横浜FC)らと一緒にブラジル留学。帰国後、フジタ工業、横河電機などでプレー。04年に指導のS級ライセンス取得。10年日本サッカー協会技術委員に就任し、14年9月~16年3月に技術委員長歴任。ザッケローニ氏、アギーレ氏、ハリルホジッチ氏と直接交渉し、日本代表監督として招聘。夫人と1男1女。