なでしこジャパンMF沢穂希(33=INAC神戸)と、横浜FCのFWカズ(三浦知良=44)の最強タッグが、日本サッカー界変革へ固い絆を結ぶ。28日、沢の都内の滞在先へ100本のバラの花束が届いた。アジア人初となるFIFA(国際サッカー連盟)女子年間最優秀選手賞を祝したカズからのプレゼント。受け取った沢は感激と同時に、日本男女のパイオニアとして、サッカー普及活動での共闘を決意した。

 真っ赤な100本のバラが、沢の心を燃え上がらせた。「カズさん本当にすごすぎる。うれしい。キングからですよ。信じられない」。その気持ちに応える最初の目標は、今年のロンドン五輪の金メダル。だが、もっと先も見据えていた。「自分が何か物をお返ししても喜ばないと思う。それよりも一緒にサッカーで表現したい。カズさんと協力してサッカー界全体を盛り上げたい」。イスに立て掛けてあった大きな花束を、顔の脇に大切そうに抱き締めて笑った。

 メッセージカードに「沢穂希様

 バロンドール受賞おめでとうございます

 三浦知良」。FIFA女子年間最優秀選手賞を獲得決定後すぐ、カズは自主トレ先のグアムから注文していた。半永久的に保存できるよう特殊加工された「プリザーブドフラワー」。昨年7月の女子W杯ドイツ大会優勝後には、選手23人全員に1輪ずつプレゼントされた。W杯後に引っ越しをした沢の自宅には、受賞したトロフィーなどを飾る“特別室”が新設されたが、そこに今も大切に飾られている。「今度はお母さんにも喜んでほしいので」と、花束は東京・府中市の実家に飾る予定だ。

 意外なことに、2人にほとんど面識はない。ただ沢にとってもあこがれの存在だ。Jリーグが開幕した93年。カズはスターとして輝いていた。ヴェルディ川崎(現J2東京V)の練習場の脇で、その年に日本代表デビューした沢はベレーザの選手として「カズさんみたいになりたい」と尊敬のまなざしを送っていた。

 「一緒にゆっくりと話をしたことはないんです。まずは食事をすることから」と対面を望む。“アイドル”から日本サッカー界を盛り上げる“仲間”へ。「私が願うのは中学校年代の環境を少しでも良くすること。今は現役なのでなかなか難しいかもしれないけれど、できることを協力していきたい」と未来へ目を向けた。

 15日にはカズがFリーグ(日本フットサルリーグ)エスポラーダ北海道の一員として参戦したことにも刺激を受けた。対戦相手は沢の地元にある府中アスレティック。幹部から、将来的な女子強化の手助けを要請されたこともあるチームだ。先日は、親交の深いビーチサッカー日本代表のラモス監督からのラブコールも受けた。「そういうことも含めて、私たちにはそれぞれ役割があると思う」。

 1本から100本へ。バラの数ほど急激でなくても「少しずつでも女子サッカー人口が増えてほしい」。いばらの道でも「キング&クイーン」なら明るい未来へと切り開ける。【鎌田直秀】

 ◆プリザーブドフラワー

 花や草を乾燥させて作るドライ(乾燥した)フラワーに対し、プリザーブド(保存された)フラワーは、生花を咲いた状態で有機溶剤で脱水、脱色。続けて保存液となる不揮発性溶液で水分と置換し、染料で着色させた後乾燥させたもの。美しい姿で長期間(状態により10年以上)保存できるため、ウエディングやインテリアに利用されることが多い。大手生花チェーン日比谷花壇によると、バラ1輪2000円前後で販売されているという。今回の花束は20万円を超えるとみられる。