浦和レッズの大槻毅暫定監督(45)が、監督としての最後の一戦を引き分けで終えた。

 指揮官は試合後、記者会見上で北海道コンサドーレ札幌のペトロビッチ監督と抱擁を交わした。席に座り、まず口にしたのは「勝ち点3を取れなくて残念。ゴール前のクオリティーはもの足りなかった」。監督の責務を終えた安堵(あんど)はどこにもなかった。

 選手は口をそろえて「自信を植えつけてくれた」と振り返る。開幕から5戦勝ちなしで堀前監督が解任され、うつむきかけていた選手に繰り返した。「俺たちは負けちゃいけないんだ」「上にいかなきゃいけないんだ」。DF槙野智章が「毎回、名言を聞いた」と振り返るミーティングで力強く言い続けた。

 大きな声を張り上げるだけではない。選手1人1人を呼び、会話を大切にした。豊富な運動量で守備にも大きく貢献するFW武藤雄樹には「おまえはゴール前にいてナンボだ」。献身性も魅力の武藤だが、心の奥底にあるのは「ゴールを決めるのがサッカーをしていて一番楽しいところ」と話す得点への意欲。個々で異なるサッカー選手としての最大のモチベーションを繊細に見極め、そこに火をつけた。

 スーツ姿に、黒のオールバックのヘアスタイル。こわもてで食い入るようにピッチを見つめる姿が「組長」「アウトレイジ」と話題になった大槻監督について関係者は「験担ぎも大事にする人」と話す。就任前の浦和ユース監督時代の16年には「髪を短くすると勝てる」と、試合に勝利するたびに少しずつ散髪。どんどん短髪になって丸刈り頭になった11月、チームはプリンスリーグ優勝を果たした。

 ユース時代はクラブのジャージーで監督エリアに立ち、髪形にもこだわりはなかった。苦境にあったトップチームを任され、「どうにかして雰囲気を変えたい」。髪を固めてスーツに袖を通したのは、少し大げさにでも自身の情熱を早く、そして大きく見せるためでもあった。

 ユース時代から指導を受けるDF荻原拓也が「本当は全然怖くない。怒られますけど、優しいですよ」と明かした指揮官は、試合に勝っても簡単に笑顔は作らない。約3週間という短い期間でチームを立て直すという厳しい使命をまっとうするために、まず自らが緩みを消した。

 就任後、ルヴァン杯1勝1分け、リーグ戦3勝1分け。無敗で約3週間を走り抜いた。就任まで勝ち星がなかったリーグで勝ち数を負け数と五分に戻した。

 練習場では選手と同じかそれ以上のサポーターにサインや写真を求められた“名物”監督は最後の会見で「勝ち負け以上に一体感が大事だとコーチとも話していた。選手は非常にいいトレーニングができている」とはっきり言った。勝ち点だけでは測れないものをチームに残し、オリベイラ新監督へバトンを渡す。【岡崎悠利】