元日本代表監督の岡田武史氏(62)がオーナーを務めるFC今治が、来季のJ3昇格(Jリーグ入会)を逃した。成績要件となる年間4位以内に次ぐ5位でキックオフ。(1)今治が勝ち、4位ソニー仙台FCが引き分け以下に終わる(2)今治が引き分け、ソニーが敗れて得失点差で上回る、の2つが逆転の条件となっていたが、今治が引き分け、ソニー仙台が勝ち、満たせなかった。

ほぼ満員の4805人が詰めかけた本拠「ありがとうサービス.夢スタジアム」で、試合後に岡田氏が会見した。冒頭に「全責任は(会長の)自分にある。何らかの形で責任を取りたい」と切り出した。J3昇格=Jリーグ入りを果たせなかったことでスポンサード見直しなど「財務的に厳しくなる。チームを強くし、会社を立て直すため早急に何とかしたい」と神妙な面持ちで語った。

深刻な表情に「責任とおっしゃいましたが…。クラブから離れるんですか」と単刀直入に聞かれると、表情を崩し「俺が離れたらクラブがつぶれちゃう。債務超過したら終わってしまう会社。その中で自分の経営ミスもあったし、責任を明確にしないといけない。給与を返すとか考えたい」と説明。役員報酬の返上を経営安定の一案としていることを明かした。

今季の成績については「戦力が偏っていた。お金もない中、最後はDFがいなくなった」と補強の問題点を挙げた。また、4位で昇格に王手をかけていた前節MIOびわこ滋賀戦に1-2で敗れ、5位に転落。4位ソニー仙台FCの結果待ちという他クラブ頼みの最終節になったことを「とにかく前節の結果がすべて」と悔やんだ。

成績が伸びなかった今夏には、盟友の吉武博文前監督(58=元U-17日本代表監督)を事実上の解任(発表は退任)。「吉武は独特な目、素晴らしい才能の持ち主だった。(オーナー就任時に)俺と吉武の2人が一緒になれば、すごいことになると思って、シェアハウスもして頑張ってきた。ただ、最後はチームに活気がなくなってきたので、心を鬼にして解任しました」と振り返った。

一方、コーチから昇格させた36歳の工藤直人監督については「自分がフルコミットできないので、現場には何も言わなかった。最初に3連敗してダメかなと思ったけど、その後は6連勝した。最後は若さが出たけど仕方ないし、責任は自分にある」。残り2戦で1分け1敗と失速し「最後まで勝たせてくれるほど神様は甘くなかった。ただ、工藤監督は成長してくれたし、仕事はしてくれたと思います。今後については現場の意見を尊重したい」と続投に含みを持たせた。

前進は認めながらも、足踏みしていることは間違いない。15年、オーナーとして初のシーズンを迎える前に「10年後にJ1で優勝争い」を目標に掲げた。達成度について所感を求められると「いろんな経営者に方々と話をしても、例えば10カ年計画など、その通りにいかないことが前提として今の時代にある。岡田メソッドも1年で作ると言って3年かかった。激しい変化に対しては、目の前のことから対応していくしかない」と答えた。ただし「目標は変えないし、発言にも責任を持つ。だが、何としても間に合わせようとは思っていない。ここから無理のある経営をしてでも目標を達成しようという発想はない。ただ、目標は変えない」と言葉に力を込めた。

いずれにしても、来季はより厳しい運営を求められる。今季はホーム戦のたびにイベント費用として200万円をかけてきたが、削減も避けられない。前々節は4700人、最終節は4800人が詰めかけ、5000人収容のスタジアムがほぼ埋まったが、あぐらはかけない。「常時、これだけのお客さんに来ていただけるほど甘くない。普段は2000人、雨の日は900人の時もあった。それでも、最初は今治人に1人も友達がいない状況から徐々に広げてきた。グラスルーツ活動も、最初は20~30人だったのに今日は200人も来てくださった」。FC今治が着実に地元に根ざしている自信も見せつつ、方策には頭を悩ませることになりそうだ。

ともかく「必昇」を掲げた今季、果たせなかったJ3昇格を来季は絶対に逃せない。「来年のチーム立ち上げ時には、自分の意見を明確な方針として伝えたい」と決めている。そして「これからも、お金をかけず知名度を高める工夫をし、何とか皆さんに感動を与えられるようにしたい。信頼を失うと期待していただけなくなるので、収支がどうなるか分からないが、補強もして、来季は何としても昇格しないといけない」と悲壮な覚悟を示し、会見を締めくくった。【木下淳】