サッカーの「2018Jリーグアウォーズ」が18日に横浜アリーナで行われ、最優秀選手(MVP)に川崎フロンターレMF家長昭博(32)が選ばれた。今季はJ1リーグ32試合に出場し、攻撃のキーマンとしてチーム2連覇の原動力となった。04年にガンバ大阪でプロデビューし、15年目での初受賞となった。

名前を呼ばれ登壇すると、「このような名誉ある賞を、平々凡々な記録でもらうのは心苦しいけど、ありがとうございます。日頃感謝の気持ちを言えないので、川崎のみんなに感謝の気持ちを伝えます」と切り出し、「会社の方々、監督、コーチングスタッフのみなさんに支えられて、この賞を取れました。サッカー人生でいちばん支えてもらったのは家族だと思います。家族に感謝を言いたいと思います」と、支えてくれる周囲への感謝を述べた。

2人の息子も花束を抱えて祝福に駆けつけた。長男はマイクを向けられると「言い残すことはありません。1年間頑張ってくれたので、尊敬するお父さんです」と父への思いを口にし、次男も「かっこよかった」と続けた。

また、中学時代にガンバ大阪ジュニアユースで同期だった本田圭佑(32)がビデオメッセージを寄せた。2人は生年月日が同じという共通点を持つ。「全然連絡来ないので、たまには連絡ください。たまには古い友人に連絡をよこして、会いに来てください」と旧友からのメッセージを受け取ると、「本当に行きたいと思います。中学校1年からの3年間、いつも一緒にいて、生年月日も一緒で、運命を感じる選手です」と話した。

チームメートのだれもが「アキ」と予測した通りのMVPだった。攻撃では、積極的な仕掛けで好機を演出し6得点7アシスト。守備でもチームが一番苦しい終盤の時間帯に、持ち味の走力を生かし仲間を助け、鬼木監督が「その姿が、チームのアキへの信頼が高まっていること」と絶賛するほどだ。

17年に川崎Fに加入。大宮で11得点を挙げただれもが認めるテクニシャンだが、川崎Fの独特な速いパス回しにフィットするまで時間がかかった。けがもあり、17年は夏まで出場機会がなかったが「選手として新しい引き出しを増やしたい」との覚悟は揺るがず、攻守でなくてはならない存在へと進化した。昨季途中から、家長は攻撃でなく守備でもスタジアムから拍手がわきおこるようになった。

今季は、鬼木監督から「もっとゴールに絡むこと」を求められた。指揮官は「相手にとって嫌なのは得点を取られること。そこにフォーカスしてやり始めたからどんどん怖い選手になってきた。プレーする時間が長くなるほど責任感がどんどん出てきたのか、今年は別次元になってきている」と評価する。実際、昨季の「2得点3アシスト」から「6得点7アシスト」と増加。だが、大宮時代に11得点を挙げている家長は「僕の中では1番ではない。それを言われても。何も、このチームでも1番でない」と満足はしていない。

日々の練習では、家長と対峙(たいじ)した選手が「アキさんに腕で押さえられると何もできない」とその体の強さに一目置く。試合でも持ち味の体幹を生かし、ボールを保持し「ため」をつくる。ボールを失うことはほとんどない。家長「自分のはそんなにパワフル系ではないけど、攻撃の選手の中ではフィジカル的には強い方だと思う。チームが苦しいときとか、出さないといけない」と自負している。MF中村憲剛(38)は「(ボールを)取られないところがやっぱりすごい。預けるところが1つあるのがチームとしてかなり強み。彼がいるから自分もいろんなことができる。アキには選択肢を与えておけば勝手にやってくれる。自分のやりたいこと、チームのやりたいことも見ながらやれる選手になってきた」。間違いなく、川崎Fの「ボールを握り倒して攻める」スタイルの中心にいる。

普段は口数が多い方ではないが、練習中では肩に力が入っているFW知念慶、鈴木雄斗ら若手に「力を抜いてやればええんよ」と“魔法の言葉”をかけてリラックスさせる。試合でも、8月19日の首位攻防となった広島戦で、FW小林悠(32)が勝ち越しとなるPKを蹴る前に「外しても同点やから」と声をかけてリラックスさせた。DF谷口彰悟も「アキさん独特のマイペースさと落ち着きがチームに安心感を与えてくれた。負けたときも、慌てんでええよ、とどっしりしている。救われる人が多かったと思います」。

チームに、38歳にしてなお「成長」を掲げる中村がいることが大きい。家長は「憲剛さんが、どんどんうまく頼もしくなっている。自分は年齢的にも若いのでもっと成長できるかなと」と刺激を受けている。来季はチームとして3連覇、複数タイトルを掲げる。家長は「たいそうなことは僕自身はなくて。1つのプレーにこだわっていきたいし、その積み重ねが成長できる。対戦相手もいろいろあるけど、大事なのはそこではない。毎日の自分の成長だと思う」。中村同様、貪欲に「成長」を掲げる家長が、来季の川崎Fを引っ張る。【岩田千代巳】