<J2:熊本0-2札幌>◇第29節◇8月31日◇うまスタ

 長いトンネルをようやく抜けた。J2札幌が熊本を下し、6試合ぶりの勝利を挙げた。前半29分にFW都倉賢(28)のヘッドで先制。後半6分にはDF上原慎也(27)が追加点を奪い、守備陣も無失点でしのぎ、アウェー熊本戦は6戦目で初勝利となった。財前恵一前監督(46)解任を受け、名塚善寛コーチ(44)が臨時に指揮。さらにFW内村、MF小野ら攻撃のキーマン不在の苦境を全員で乗り越えた。

 長かった。審判が表示した後半ロスタイムは6分。名塚コーチは終盤、タッチライン際に、ずっと立ち、声を出し続けた。ボールが出た際には、疲れの出ていたMF前田の背中をたたき、給水ボトルを手渡した。「もう少しだ」。90分を過ぎてから時計を見たのは計7回。待っていた勝利のホイッスルの瞬間、軽く両手を上げガッツポーズすると、最後はベンチのスタッフと握手しながら引き揚げた。笑顔はなかった。

 大事なリスタートの一戦だった。25日の前節栃木戦で引き分けに終わり、5戦勝ちなし。28日に財前前監督の解任と、クロアチア人のバルバリッチ新監督への交代が発表された。名塚コーチは「プロとして上の人間が責任を取るのは当たり前だが、僕らスタッフ全員が、財前監督が辞めることに、悔しい思いでいた」と振り返った。昨年、同前監督の下、初めてトップチームのコーチに就任。サポートしてきた立場として、結果が出ない責任は当然、感じていた。

 準備期間はわずか3日間。「1年半の財前監督のサッカーに加え、特にメンタルの部分を強く意識させた。まずは勝ち点3を取ること。内容は完敗ですが」。大きく手を加える時間はなかった。FW内村、丁、MF小野と攻撃のキーマンが欠場し、MF荒野が微熱で先発回避。ベンチワークは古辺、赤池両コーチと相談しながら指示した。スクランブル体制の中、チーム一丸で、8試合ぶりの完封勝利を果たした。

 ベンチには、DF薗田の発案で右膝負傷で今季絶望となった深井のユニホームが掲げられた。主将のMF河合は「より強い気持ちでやろうと臨んだ。1人1人が責任を感じてやっていた」と言った。監督交代だけでなく、負傷者も続出。傷だらけの中、体を張ってつかんだ36日ぶりの勝ち点3だった。【永野高輔】