まったく新しいイングランドだった。ルーニーはいない、ジェラードもランパードもいない。ピッチに立った11人のうち、前回大会に出場したのはFWスターリングだけ。屈辱的な1次リーグ敗退を味わったサッカーの母国が4年後、まったく新しいチームになってW杯に戻ってきた。

 ドイツにブラジル、アルゼンチン…、登場するのは「既視感」の強いチームばかりだったから、その新鮮さが際立った。プレミアリーグでは知られた選手たちだが、W杯では「お初」。直前の試合でパナマに快勝したベルギーも主力メンバーは前回大会と変わらなかったから、新鮮なイングランドが楽しみだった。

W杯初戦でチュニジアに勝利し喜ぶハリー・ケーン主将(左から2人目)らイングランドの選手たち(AP)
W杯初戦でチュニジアに勝利し喜ぶハリー・ケーン主将(左から2人目)らイングランドの選手たち(AP)

 試合的には苦戦だった。ケーンのゴールで先制したものの、PKで追いつかれると攻め手を欠いた。運動量も落ち、シュートの精度も低かった。それでも、後半ロスタイムにケーンのヘッドで勝ち越し。「新生イングランド」は、勝利で復活へスタートを切った。

 競技発祥国だが、W杯では決して好成績を残していない。8カ国しかない優勝経験国だが、これは66年地元開催でのもの。これ以外に決勝進出はなく、他大会では90年大会でベスト4に入っただけだ。母国のプライドからかFIFA加盟も遅く、W杯初出場も第4回の50年大会から。最近では「ベスト8」が似合う中堅国に成り下がっていた。

決勝ゴールを上げるイングランドFWハリー・ケーン(左)(AP)
決勝ゴールを上げるイングランドFWハリー・ケーン(左)(AP)

 プレミアリーグには世界中のトップ選手が集まる。今大会も各国の主力の多くがイングランドでプレーしている。ただ、それが代表を弱くしているという指摘もあった。危機感を感じたイングランド協会(FA)は若手育成に本腰を入れだした。それが実って、昨年はU-17、U-20のW杯でそれぞれ初優勝。彼らが経験を積めば、代表チームの戦力はさらに高まる。

 元イングランド代表FWでW杯得点王に輝いたリネカー氏は「若い選手には、素晴らしい才能がある。今大会を復活へのきっかけにしてほしい」と話す。選手が変わりばえしないドイツやネイマール頼みのブラジルなど、優勝候補の世代交代は進んでいない。大幅に若返ったイングランドが近い将来、2度目のW杯制覇を果たす-。そんな夢が見られるケインの活躍とイングランドの勝利だった。