桐生祥秀(21=東洋大)が向かい風では日本歴代2位のタイムをたたき出した。今季国内100メートル初戦の2本目で向かい風0・5メートルで10秒08。日本人初の9秒台には届かなかったが、自身8度目となる10秒0台をマークした。ハンマー投げ室伏広治氏の指導を受けて肉体改造した成果が出た。次戦は29日の織田記念国際(広島)。大台突破が現実味を帯びてきた。

 桐生が風を切り裂いていった。山に囲まれ、不規則に風が吹く会場でスタート5分前、風は追い風1・4メートル。それがスタート位置に立つと、神様のいたずらのように向かい風0・5メートルに変わった。「日ごろの行いはいいのに…」。

 ただ心は乱れない。悪条件にも力みはなく、後半もスピードは落ちなかった。10秒08は自身8度目の10秒0台だった。山県が昨年6月に出した10秒06には及ばなかったが、向かい風条件時の日本歴代2位。「追い風吹いてくれよ」と苦笑いしてから「向かい風でも9秒台を出さないと世界で戦えない」と悔しがった。

 昨年11月。東洋大の土江コーチに言った。「室伏先生に教わりたいです」。これまでトレーニングに消極的だったが、リオ五輪で世界との筋力差を痛感させられた。真っ先に浮かんだのが世界の鉄人だった。週に1度、東京医歯大に出向き2時間のトレーニング。そこは未体験の世界だった。バーベルに陸上のハンマーをぶら下げるスクワットなど目からうろこの練習ばかりで「ウエート(トレーニング)が楽しくなりました」。自然と体の安定性が増した。後半に上体が反って力が前に伝わらない悪癖も消えた。向かい風でもフォームは乱れなかった。

 次戦は山県も出場する29日の織田記念国際。高速トラックで例年追い風が吹きやすい。調子は「まだ上がっていく感じがあります」。次こそ歴史の扉を開く。【上田悠太】