桐生祥秀(21=東洋大)の9日の日本学生対校選手権男子100メートルで9秒台をマークした快挙の裏にはスターターを務めた福岡渉さん(46)の職人技があった。男子100メートル決勝の10分前、女子100メートル決勝の風は追い風2・3メートルで参考記録だった。スターター歴11年、福井陸協のスターター主任は機転を利かし、風が弱いタイミングで号砲を鳴らした。

 女子100メートルのレース前。福岡さんは風のリズムを分析していた。強風が1度吹いた後、わずかにやむ。再び強風が吹いた後、約3秒間風が弱まる。その3秒がチャンス。そう気が付くと、イメージトレーニングを繰り返した。

 桐生、多田らがスタート位置で準備をする間。スターターの位置についた福岡さんは、約40メートル先の吹き流しを見た。ただ係員と重なる。福岡さんは走って「どいて」と場所を動いてもらうようお願いした。いよいよ本番。吹き流しを見ながら、ちょうど“弱風の3秒”の間に号砲を打った。風は追い1・8メートル、公認記録の範囲内だった。絶好のアシストをした福岡さんは「日本で最初に9秒台を出させることができた」と笑った。