PGAツアーに参戦している松山英樹と石川遼。この2人の日本人は特定のコーチを付けずにツアーを転戦しているが、マスターズを2度制したPGAツアー屈指の飛ばし屋であるバッバ・ワトソンも、同じく長年コーチを付けていない。

 毎週タフなコースセッティングで開催されるPGAツアーで、自らスイングの調整を行うのは非常に困難だ。そのため95%以上の選手が何らかの形でコーチと契約を結んでサポートを受けている。


●PGAツアー屈指の飛ばし屋は変則スイング


 このコーチを付けずにいる3人、石川はオーソドックスなスイングだが、松山とワトソンは特徴的な要素を持ったスイングだ。

 松山はテークバックを比較的ゆっくりと引き、さらにトップで一瞬静止する「間」ができる。このトップの独特の動きは切り返しの動きやタイミングを常に一定に保つことが難しいため、コーチが付いていれば修正をされてしまった部分かもしれない。しかし松山はこの「間」を自分のものとし、切り返しで上半身と下半身を連動させることで安定感の高いショットを手に入れた。

 ワトソンに関して言えば、オーソドックスな部分が残っていないのではないか、というくらいアブノーマルな動きが多い。

 まずテークバックでは極端なほどアップライトにクラブ上げる。トップではクラブヘッドが頭よりも地面側まで下がりオーバースイングに見える。さらに目標側の足は極端にヒールアップをし、つま先しか地面に接していない。

 切り返しでは浮いた目標側の足で地面を踏み込むように下側に力をかけるのだが、インパクトでは目標側の足が浮く。つま先の向きが変わりながら元の足の位置とは違うところに着地するのだ。フィニッシュは、いわゆる「明治の大砲」の状態で目標と反対側に体重を残してボールの行方を追う。手やクラブもフォローで体に巻き付くような動きはなく、上方向へかち上げるようにフィニッシュを迎えるのだ。

 こうして文字にしてみると、従来のレッスンでアマチュアゴルファーがしてはいけない動きを羅列したように感じるかもしれない。

バッバ・ワトソンのスイング
バッバ・ワトソンのスイング

●スイングはつじつまが合えばよい


 ではなぜ変則スイングのワトソンが、これほどまでに飛ばすことができるのか。それは見た目の変則さではなく、スイング中の「力の流れ」を見ると理解ができる。

 通常、右打ちの場合、体重の移動や力の流れがトップで右サイドへ、そして切り返しで左サイドへ移行していくと思われている。しかしワトソンの場合、力の流れは左右ではなく上下に起こる。トップで上方向に力を向かわせ、切り返しで下方向に力をかける。するとその力は地面にぶつかってまた上方向に戻ってくる。その地面からの反力を使った縦方向の力によってヘッドスピードを上げているのだ。

 ワトソンの下半身の動きに注目すると理解しやすい。特徴的なのは3点。まずはトップでの目標と反対側の足。ひざが一直線に伸びきっている。これは左右の体重移動を用いるスイングではNGとされる動きだ。ひざが伸びきってロックされてしまうと、次の動作に入ることできない。

 トップの際のヒールアップも、上下の力の流れを生むための動きだ。浮かせた目標側の足のかかとを切り返しでグッと踏み込むことで、下方向にエネルギーをぶつけることができる。そのエネルギーは地面から跳ね返り上方向へのエネルギーとなる。

 さらにインパクトで目標側の足が地面から離れる。これは地面からの力を上側へ伝えた結果の動きだ。ワトソン自身はジャンプしようとか足を伸ばそうなどとは考えていないはずだ。


●ワトソンの動きは、アマチュアにも使える


 かなり奇異に見えるワトソンの動きだが、PGAツアーのトッププロでもこれと同じ動きをしているプロがいる。ダスティン・ジョンソンとジョーダン・スピースだ。この2人もトップで右ひざが突っ張るように伸びきっている。

 これは切り返しで下方向に力を掛ける準備の動きで、ワトソンと同じだ。地面からの跳ね返ってくる力を使ってヘッドスピードを速めている。

 また女子ではドライバーが平均270ヤードを記録する飛ばし屋のレクシー・トンプソンがインパクトの際、ジャンプするように左足のかかとを浮かせている。

 この動きはジュニアゴルファーなどにもよく見られる。ジュニアや女子は男子ほど筋力がないため、自分の力で腰を回転させたり体重を移動をするのではなく、無意識に地面反力を利用し、上下方向のエネルギーを生み出してヘッドスピードを上げているのだ。

 左右への体重移動ができずに悩んでいたり、積極的な体重移動を意識しても飛距離が伸びない人は、この上下の動きを取り入れてみると良い。

 まずはクラブも何も待たずに、シャドウスイングをしてみよう。ダウンスイング時に左足で地面を押し、インパクトでは小さなジャンプをする要領で地面を蹴る。このとき前傾角度を保ち、頭を伸び上がらないようにすることがポイントだ。

 腕の力を抜き、体の正面を腕が高速で通り抜ける感覚を体感できればOK。この動きに慣れ、スイング全体の調整ができれば、世界のトッププロと同じ動きを取り入れることができる。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)