今週、全国に先駆けて東京では桜の開花が宣言された。プレー中の装いも徐々に軽くなりはじめると、いよいよ最初のメジャー、マスターズがやってくる。


●さぁ、マスターズ


 4月6日開幕のマスターズをテーマに取り上げるのはまだ少し早い気もするが、今年は特にはやる気持ちを抑えられない。いまだかつて、これほどまでに日本人が優勝候補の本命の1人として注目を浴びた大会があるだろうか。少なくとも私がゴルフに関わるようになってからこんな気持ちになったのは初めてだ。

 日本人初のメジャー制覇は若干25歳の松山英樹(LEXUS)には大きすぎるプレッシャーだろうか。いや、それをはねのけてこそのメジャーチャンピオンだ。


日本人初のメジャー制覇に挑む松山英樹
日本人初のメジャー制覇に挑む松山英樹

●松山がメジャーで勝つためには


 「パッティングがもう少し良くなって、忍耐力をもって経験を積めば、もちろんヒデキは勝つことができる」

 今年に入り、今までメジャー21勝に貢献してきた名コーチ、デービッド・レッドベターに松山の世界4大メジャートーナメントでの優勝の可能性を聞いた時に返ってきた言葉だ。

 「日本のファンにリップサービスを」とねだったわけではなく、レッドベターは本気で日本人がメジャートーナメントで優勝できると思っているようだった。

 「彼を強くしているのは”自信”だ。昨年末から日本のトーナメントだけでなく、PGAのトッププロの出る試合でも立て続けに好成績を収めている。世界ランクが上位で安定している状態で、これは本人にとっても大きな自信になっているだろう」

 松山の躍進を支えるのは一級品のアイアンショットだが、メジャーの優勝を左右するのはパッティングだという。

 「優勝に必要なのはパッティングストロークの一貫性だ。メジャーは普段の何倍ものプレッシャーがかかる上、グリーンのコンディションはとてつもなくハードだ。こういったグリーンと4日間対峙するには、何よりも良いストロークを再現できることが大事だ。得意のショットではそれができているので、パッティングでも必ず手に入れることができるはずだ」

 このパッティングの一貫性にも関わってくるのが、忍耐力だという。

 「コースセッティングがハードなメジャーの大会では、パーオン率が低くなる。グリーンを外した時にアプローチで寄せてパッティングでスコアを拾いに行く場面が増えるが、そこでいかに我慢ができるか、忍耐力が試される。こういった場面で辛抱強くプレーすることができれば、日本人初のメジャー制覇が見えてくるはずだ」


●石川に足りないもの


 今回のマスターズの出場権はないものの、松山と同世代である石川遼への評価も高い。

 「リオ(欧米人はリョウと発音しづらい)も素晴らしい素質を持っている選手だ。15歳で日本のトーナメントに優勝したことはその才能を裏付けている。彼に必要なのは”自信”だ。日本のツアーにもたびたび参戦して好成績を残しているようだが、それはおそらく自信があるからだろう。日本でプレーするのと同じような自信をアメリカでも持つことができれば、もう一段、ステップアップすることができるはずだ」

 技術的な部分ではボールコントロールの精度を上げるため、スリークォーターショットで打つことを学ぶ必要があるという。

 「PGAツアープレーヤーはドライバーをウェッジのように振っている。つまり限界まで振り切ることはせず、どんな番手でも常にコントロールを意識しているのだ。しかしリオの場合は常に限界まで振り切るワンパターンなプレーが目につく。これではショットの精度はなかなか上がらないし、トータルで良いスコアを出し続けることは難しいだろう」

 レッドベターにアドバイスを受けたわけではないだろうが、石川は最近のプレーを見るとスイング改造の影響もあり、以前のようなフルスイングが少なくなっている。現在行っているフェースローテーションを抑えたスイング改造に成功して、自信を持ってPGAツアーに臨めば活躍するチャンスはあるはずだ。


●コーチを離れることになったリディア・コとの関係


 レッドベターはここ数年、女子ツアーの世界ランク1位リディア・コのコーチを務めていたが、今年に入ってペアの解消が伝えられた。今後も彼女が活躍し続けることは可能なのか、そのための条件も聞いてみた。

 「いろいろな事情があってリディアは、クラブ、キャディ、そしてコーチの全てを変えた。トッププレーヤーは長いキャリアで変えないことの重要性を理解し、一貫性を求める傾向にあるためこうした大きな変更は行わないものだ。しかし、彼女に関して心配はしていない。彼女は偉大なプレーヤーだからね。

 短期的にみると調子が落ちていたが、原因はフィジカル面にあった。もう少し体重を増やして体を強くすれば、ボールをコントロールする精度はもっと上がり、また安定して勝ちを積み重ねることができるはずだ」

 コンビを解消した選手に関しては心情的に話しづらいものだが、レッドベターは言葉を選びながら真摯(しんし)に答えてくれた。多くの出会いと別れを経験している名コーチは、リディア・コの今後のさらなる成功を祈っていた。

 これまで歴史に名を刻む多くのメジャーチャンピオンを育て上げてきたレッドベター。次に彼がどのような選手を頂点に導くのか注目したい。


 ◆吉田洋一郎(よしだ・ひろいちろう)北海道苫小牧市出身。シングルプレーヤー養成に特化したゴルフスイングコンサルタント。メジャータイトル21勝に貢献した世界NO・1コーチ、デビッド・レッドベター氏を日本へ2度招請し、レッスンメソッドを直接学ぶ。ゴルフ先進国アメリカにて米PGAツアー選手を指導する50人以上のゴルフインストラクターから心技体における最新理論を学び研究活動を行っている。早大スポーツ学術院で最新科学機器を用いた共同研究も。監修した書籍「ゴルフのきほん」(西東社)は3万部のロングセラー。オフィシャルブログ http://hiroichiro.com/blog/


(ニッカンスポーツ・コム/ゴルフコラム「ゴルフスイングコンサルタント吉田洋一郎の日本人は知らない米PGAツアーティーチングの世界」)