ラグビー校の隣広場にあるエリス少年の銅像(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校の隣広場にあるエリス少年の銅像(撮影・峯岸佑樹)

11月のラグビー日本代表の英国遠征中に合間を見て、ラグビー発祥の地とされる英国のパブリックスクール「ラグビー校」を訪ねた。1人の少年にまつわる歴史を継承するラグビーの不思議な起源と、エリート教育の関係に迫った。【取材・構成=峯岸佑樹】

ラグビー発祥の地とされるラグビー校の校庭(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー発祥の地とされるラグビー校の校庭(撮影・峯岸佑樹)

ロンドンから特急電車で北西へ約1時間。ラグビー駅の改札を出ると、巨大なラグビーボールが鎮座する。住宅街を10分歩くと、映画「ハリー・ポッター」のような歴史を感じさせるレンガ造りの校舎と、青々とした芝の上に立つH形のゴールが見える。ラグビー校広報のポール・ジョセフ氏は「この校庭でラグビーが誕生したんだ。当時は除草用の羊をどかして、100人ぐらいで走り回っていたんだ」と胸を張った。

1823年。校庭でのフットボールの試合中、ウィリアム・ウェブ・エリス少年がルールを破り、ボールを手に持って走り始めた。これが「ラグビーの起源」とされる逸話だ。記録がないため真相は定かではなく、作り話という説もある。エリス少年の銅像前では、女性ガイドが「銅像の顔は彫刻家の息子よ。エリス氏の写真が残っていなかったの」と仰天告白し、耳を疑った。さらに、当時のボールの材料で直径60センチ超の豚のぼうこうを見ると「本当にこれでラグビーができたのか…」と、目を疑った。

不思議な気持ちで校舎を歩いていると、壁の落書きやムチの跡が残るしつけ部屋があった。生徒のやんちゃぶりを想像して、少し心が和らいだ。ガイドの説明を聞くと「エリート教育」において、ラグビーの役割が重要であったことを知った。生徒がルール作りや寮単位での対抗戦を自主的に取り組むことで、遊びからスポーツへと変化した。そのおかげで、悪さをする生徒が減り、リーダーシップを発揮する生徒が育ったという。英国では、エリス少年の教育普及の貢献も高く評価されている。

19年ワールドカップ日本大会開幕まで9カ月と迫り、開催都市を中心に優勝杯が展示されている。その名も「ウェブ・エリス・カップ」。世界中のラグビー選手がこれを欲しさに力を振り絞る。起源の真相はともかく、その主人公は今も世界中で愛されている。

ラグビー校の校舎(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校の校舎(撮影・峯岸佑樹)

◆ラグビー校 英・ウォリックシャーにある私立中高一貫校。1567年に全寮制の男子校として創設。1975年から男女共学となる。「ザ・ナイン」と呼ばれる英国トップ9校の1つで、多くの生徒は名門オックスフォード大などに進学。主な卒業生は「不思議の国のアリス」の作者ルイス・キャロルや、ネビル・チェンバレン元英首相ら。全生徒数は806人。

ラグビー駅の改札出口にある巨大ラグビーボール(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー駅の改札出口にある巨大ラグビーボール(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校にあるしつけ部屋(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校にあるしつけ部屋(撮影・峯岸佑樹)
エリス博物館に展示されている、ラグビーボールの材料だった豚の膀胱(撮影・峯岸佑樹)
エリス博物館に展示されている、ラグビーボールの材料だった豚の膀胱(撮影・峯岸佑樹)
エリス博物館に展示されている、豚の膀胱がラグビーボールに使われていた時の写真(撮影・峯岸佑樹)
エリス博物館に展示されている、豚の膀胱がラグビーボールに使われていた時の写真(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校にある当時のラグビーイラスト(撮影・峯岸佑樹)
ラグビー校にある当時のラグビーイラスト(撮影・峯岸佑樹)