黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

湖の面のひと揺れに発つ花筏

 水面に浮いた桜の花弁が寄り集まり、筏のように流れていく様を、季語では“花筏”と言います。

 穏やかな湖にじっと浮いたままだった花筏。船が通ったのか、鳥が飛び立ったのか、あるいは風が吹いたのか、湖の水面がさざ波に小さく揺れた瞬間、その花筏がゆっくりと動き始めました。やがて壊れ、朽ちてゆく儚いさだめの花筏。しかし、湖のそのひと揺れに花筏としての 確かな命を得、旅立って行ったのです。

[季語] 花筏
[季節] 春


君が手の膝にありたる花疲

 花見を終えた後の疲れには、独特の気怠さがあります。人混みを歩き回った身体的な疲れだけでなく、花に昂ぶり、花に酔った後の甘い疲れがあるものです。

 恋人と二人、花見を終えて帰ってきました。膝の上にはぐったりと力なく置かれた彼の手。さっきまでの花の酔い、そしてその余韻を曳いたまま、花疲れの甘い倦怠感に身を委ねている二人です。

[季語] 花疲
[季節] 春


花明りして東京へ発つ列車

 満開の桜に仄明るく照らし出された中を、東京へ向かって旅立ってゆく若者。東京には夢が、未来が待っています。しかし一方で、未知の街への不安、ふるさとへの心残りなども抱いていることでしょう。

 満開の桜には、恍惚感と不安感の二つを同時に感じるものです。未来への期待と不安、旅立ちの喜びと寂しさが入り交じった花明りの中を、若者を乗せた列車は東京へと出発してゆきます。

[季語] 花明り
[季節] 春


さくらさくら今宵は誰を連れてゆく

花時になると、訃報を耳にすることが多くなります。まるで、桜の精が連れていってしまうかのように……。

 花の夜、街にともるたくさんの春灯しを見ていると、この中から今夜もまた一人、桜の精に召されて天国へ旅立っていく人がいるのかもしれない……。そんなことを、ふっと考えることがあるのです。

[季語] さくらさくら
[季節] 春


花の夜のすこし嘘あるいらへかな

 「君は……なの?」投げかけられた問いに、ほんの少しだけ嘘を交えた答を返しました。嘘といっても、少しだけ自分を素敵に見せたくてついた嘘、ちょっぴり背伸びをしただけのたわいない嘘です。

 そんな嘘をついてしまったのは、きっと花の夜の華やぎ昂ぶった気分のせいでしょう。そして、そんな可愛い嘘が許されるのも、美しい花の夜ならばこそです。

[季語] 花の夜
[季節] 春




Main PageBacknumber Menu