黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

京紅の蓋ずれてゐるしぐれかな
(きょうべにのふたずれているしぐれかな)

 合せ貝や蓋付きの平たい容器に入り、指先や小筆で唇に塗る京紅。その京紅が、蓋が少しずれたまま鏡台の前に置かれています。

 この紅の主は、何か急用ができて慌てて出かけたのでしょうか、それともこれから会う人へ心奪われ、紅の蓋がずれていることに気付かなかったのでしょうか……?

 ほんの少しずれたままの京紅の蓋から、さまざまな想像や情感が膨らんでゆきます。外は静かなしぐれが降っています。

[季語] しぐれ
[季節] 冬


着ぶくれて三年坂に再会す
(きぶくれてさんねんざかにさいかいす)

 女性好みの可愛いお店がたくさん並び、かつては画家の竹久夢二が恋人と暮らしていたという三年坂。とてもロマンティックなムードが漂う京都でも一番の観光名所です。

 そんな三年坂で再会した懐かしい人。だけど、こちらは寒い寒いと何枚も衣服を重ねた着ぶくれの姿……。

 思わぬ再会が嬉しくもあり、恥ずかしくもあり、そしてちょっぴり照れ臭い三年坂のワンシーンです。

[季語] 着ぶくれ
[季節] 冬


千代紙の鶴に蛙に冬ぬくし
(ちよがみのつるにかえるにふゆぬくし)

 色とりどりの京都の千代紙で折られた鶴や蛙。もとはただの四角い千代紙が、鶴へ、蛙へと変わっていく様子は、まるで人の手から命をもらっているかのようです。

 寒い冬の間にも時折おとずれるあたたかな一日。やわらかな冬の日差しの中でおしゃべりをしながら千代紙の鶴や蛙を折る少女たちの姿は、冬のあたたかな一日をよりあたたかな雰囲気にしてくれるものです。

[季語] 冬ぬくし
[季節] 冬


この寺の冬が好きだと聞いたから
(このてらのふゆがすきだときいたから)

 「あの寺の冬が好きなんだよね…」

 憧れている男性の口から何気なく出たそんな一言を追い、一人で訪れた冬の京都。彼が好きだと言ったその寺の冬を訪ねることで、その人が少しわかるような気がして、同じ想いを分かち合えるような気がして……。

 寒さ厳しい冬の京都は、訪れる人も少なく、寂しいものです。しかし、彼女の心はあたたかな想いに満たされていることでしょう。冬のその寺で、彼女は愛しい人の面影に、飾らない心に会えるはずですから。

[季語] 冬
[季節] 冬




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