黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

草笛を吹けり遠くへゆくなよと

 恋という言葉も知らないころからいつも一緒だった幼なじみの彼と彼女。明日のことなど何も考えず、野山を駆け巡り、川で水遊びをした幼かった二人にも、いつかそれぞれの未来を考えなければいけない時が訪れます。

 ある日、二人で土手に座って話をしていると、彼が草笛を吹き始めました。子供のころから何度も聴いたことがある彼の草笛。しばらくその音色を聴いていた彼女に、彼がぽつりと言ったのです。「遠くへゆくなよ」と……。

 思春期を迎え、いつかお互い淡い恋心を抱いていたのかもしれません。だけど「好きだ」と言うには、あまりにも近くにいすぎた二人。できるならこのまま、子供のころのようにずっとずっと一緒にいたいけれど……。

 彼が再び吹き始めた草笛の音が、川風に乗ってゆっくりと流れていきます。

[季語] 草笛
[季節] 夏


波乗のしばらく波をとりこにす

 波乗りをしている人々を見ていると、波を待つ時間の方が長いくらい幾つもの波を見送り、そして何十回かに一つの「コレだ!」という波に乗ります。サーファーの中には、待って待って待ち焦がれたこの大波を100%味わい尽くすかのように、波が消えてしまう寸前まで、とても長い間その波にうまく乗っている人がいます。

 体の一部のようにボードを操り、波をもまた自在に操っているかに見えるサーファー。そんな波乗りの様子を見ていると、まるで波の方がサーファーのとりことなり、波の方からその人のサーフボードに吸いついていっているようにも思えるほど。波に乗せてもらっているようではまだまだ。自らのテクニックで波を征服し、波を夢中にさせてこそ、本当の波乗りといえるのかもしれません。

[季語] 波乗
[季節] 夏


胸中の少女うなづく夏帽子

 男性にいつまでも少年の部分があるように、女性の胸の中にもいつまでも少女の部分が残っているものです。会話をしているとき、質問を受けたとき、買い物をしているとき、恋人とのデートの途中……etc。ちょっぴり大人の顔をして、言葉では否定してみせたり、あいまいな態度を取ったりしていても、胸の中の少女はとても素直に喜んだり、「YES」とうなずいていることがあります。

 髪がまだ真っすぐに長く、リボンがついた麦わら帽子がとてもよく似合っていたころの、無邪気で素直だった自分……。ときどきふっと顔を見せる自分の中の少女に驚きながらも、いつまでもこの胸の中の少女を大切にしていきたいなと思うのです。

[季語] 夏帽子
[季節] 夏


君とゐて殖えゆくものに螢の火

 いとしい恋人と川べりでおしゃべりを楽しんでいました。おしゃべりに夢中になっているうちに、夕暮れが訪れ、蛍が一匹、二匹……。気が付けば、瞬く間に殖えていったたくさんの蛍火に囲まれていた二人。夜のとばりの中をふわりふわりと浮遊するたくさんの蛍火は、二人の恋を祝福し、優しく見守っているかのようでもあり、また、一緒にいればいるほど募っていく恋人へのいとしさのようでもあり……。

 今ではこのような光景にはなかなか出合えないものですが、一昔前の恋人たちは蛍火の中で恋を語らうこともあったのではないでしょうか。私にとっては、少しあこがれのワンシーンです。

[季語] 螢の火(螢火)
[季節] 夏




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