黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

爽やかに洗つて二人分の衣

 恋人と二人でしばらく秋の旅へでかけました。旅も長くなると、時々は洗濯もしなければなりません。彼のシャツ、彼のソックス、彼のハンカチ……etc。いつも洗っている自分一人分とは違う少し多めの洗濯物に、今、自分が彼と一緒にいることをあらためて実感しています。

 空は青く高く、空気は清く澄みわたった、さっぱりと快い季節の中で、他のだれでもない恋人との二人分の衣を洗っている幸福感、そして真っ白に洗い上がった洗濯物。爽(さわ)やかな季節の中の、ひときわ爽やかな時間です。

[季語] 爽やか
[季節] 秋


片手は君に団栗はポケットに

 恋人と二人で歩いている途中、ふっと目をやった足元に団栗(どんぐり)を見つけました。いくつになっても女性は木の実や貝殻といったかわいいものが大好き。しかも、大好きな彼と一緒に見つけ、一緒に拾った団栗は、それだけでもう大切な宝物のように思えるのです。

 拾った団栗を大切にポケットにしまい、私たちはまた再び歩き始めます。片手には彼の温もりを感じながら、ポケットの中には二人で拾った団栗の触れ合う小さな音を感じながら……。

[季語] 団栗
[季節] 秋


うそ寒の床に拾ひし昨夜の衣

 「うそ寒」とは、冬の身震いするような寒さではなく、秋になって初めて感じるほのかな寒さを指す季語です。

 体に薄くまとわりつくような寒さを感じて目を覚ましたある朝。ベッドサイドの床には、昨夜脱いだままの服が、昨日の疲れそのままに落ちています。ベッドを抜け出し、床に落ちていた洋服を拾い上げました。

 一夜が明けてゆくしらじらとした朝の空気、素足から伝わってくるフローリングの床の冷たい感触、そして床の上に落ちたままの服が物語る昨夜のできごと……。

 うそ寒の部屋で一人、床に落ちままの服を拾い上げながら、やがて訪れる冬に対するとりとめのない不安が胸をよぎっていったのです。

[季語] うそ寒
[季節] 秋


チケットの行き先違ふ夜長かな

 遠く離れた街に暮らす恋人と、久しぶりの旅行を楽しみました。彼と二人きりで過ごした数日間が終わり、明日はいよいよ帰らなければならないという夜。二人のバッグの中にはすでに、それぞれが暮らす街へ向かうためのチケットが入っています。この夜が明ければ、別々の街へ一人で帰り、またしばらく別々の時間を過ごさなければならないのです。

 旅の思い出を語り合いながら、二人で過ごした日々を懐かしみながら、互いの愛を確かめ合いながら、最後の夜を惜しんでいる二人。秋の夜は長いといいますが、翌朝に別れを控えた二人にとって、これほど短く感じる夜はないことでしょう。

[季語] 夜長
[季節] 秋


見送られゐて秋時雨あきしぐれ

 二人で過ごした時間が終わり、自分の街へ帰る私を彼が見送ってくれています。見送る方も寂しいものですが、見送られる方はさらに寂しいもの。あと数分で私たちはまた離ればなれになってしまう、その瞬間が刻一刻と近付く中、思いもよらず降り始めた秋のしぐれ。まるで私を帰したくないというかのように、帰さないためであるかのように……。

 秋に降るしぐれは、肌身にしみるような寂しげな趣があります。まるで私たちの涙のように降り始めた秋しぐれ。二人の今の心の中を象徴しているかのように、静かに、寂しげに降る秋のしぐれです。

[季語] 秋時雨、あきしぐれ
[季節] 秋




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