黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

遠き地に花見て君のことばかり

 旅に出ることが多くなりました。今の季節は、旅先で桜の花に出合うことも少なくありません。だけど、どこの土地で、どんな桜を見ていても、私が花に重ねて思い描いているのは、遠く離れている愛しい人のことばかり。
 古(いにしえ)の人々もお花見をしたと聞きます(かつては花見といえば梅の花だったそうですが)。花見というのは、ただ単に今目の前に咲いているその花を愛でるということだけではないでしょう。誰もが、それぞれの思いやその時の心境などを、まるで鏡のように映しながら花を見ているのだと私は思います。だから、毎年同じ花を見ても、その時々で異なった感動が生まれるのではないでしょうか。殊に私の場合、俳句に出会い、詠み人として桜の樹の下に立つようになったことで、それまでとは見えてくるものが違うようになった気がします。
 余談ですが、最近の私が好きな桜は、満開でも、散り際でもなく、咲き始めの頃の桜。そこには、“花を待つ”という心がありますから……。

[季語] 花(桜)
[季節] 春


花冷の疵つき易きハイヒール

 男性はご存じないかもしれませんが、ハイヒールは少しの衝撃にもすぐに疵(きず)ついてしまううえ、ほんの些細な疵でもとても目立つものです。また、ハイヒールを履いて歩くのは、実はとても疲れるもの。しかし、少しでも脚を美しく見せたい一心で、無理をしてでも女性は華奢なハイヒールを履くのです。
 花冷(はなびえ)とは、桜が咲く頃、突然冷え込むことを言います。満開の桜に感じる、美しいがゆえの不安感。そして、花冷の華やかさと寂しさ…。花冷のその日、うっかり疵つけてしまった美しくももろいハイヒールに、女性であるがゆえに感じる寂しさや不安感が、ふっと胸をよぎったのです。

[季語] 花冷
[季節] 春


花ひとひらふたひら君を忘れない

 咲き満ちた桜の花が、まるで堪え切れないかのようにひとひら、ふたひらとその花びらをこぼしています。その下にたたずみ、終わった恋の後ろ姿を見送っている私。もう二度と会うことのないかもしれない人…だけど、その人のことは一生、自分の胸の内に大切にしまっておくつもりです。とてもすばらしい人でした。そして、たとえ終わりを遂げた恋でも、この恋に身を任せたことは、私にとって誇りだから。「あなたのことは、一生忘れない…」自らに言い聞かせるようにつぶやいた一言。
 出会いと別れの季節ならではのワンシーンです。

[季語] 花(桜)
[季節] 春


花見んと花屑に置く旅かばん

 旅先で、満開の桜に出会いました。あまりの美しさにしばし足を止め、ゆっくり花を愛でようと手に持っていた旅鞄を足元に置こうとした私。すると、そこにはまた、散ったばかりの桜の花びらが、あたり一面、美しく敷き詰められていたのです。
 おびただしい数の桜の歌を残し、花の歌人と呼ばれた西行(さいぎょう)は、この世で一番美しい桜は“夢中落花(むちゅうらっか)”、つまり夢の中に散る桜だと言いました。それはしょせん幻だということなのかもしれませんが、今、私の佇(た)っている場所は、頭上には満開の桜、足元には花屑、そして、まわりは散りしきる花びらの雨……。西行が唱えた“夢中落花”とは、ひとつにこのような情景なのかもしれません。まるで夢の中の世界にいるような、あまりにも美しく幻想的なひとときだったのです。

[季語] 花(桜)、花屑
[季節] 春




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