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[English]
泳ぎ来て果実のやうな言葉投ぐ
ある夏の日、彼と2人でヨットに乗り、クルージングを楽しんでいたときのことです。しばらく海原を走った後、静かな入江に船を留め、私は甲板で読書を、彼は泳ぎに行ってくると海へ入っていきました。
どれほど時間がたったのでしょう。読んでいた本から顔を上げると、彼が水しぶきをあげながら船に向かって泳いできます。そして、海中からすぱっと顔を上げると、甲板にいた私にある言葉を投げかけたのです。
それは、とてもみずみずしく甘酸っぱい、まるで朝露のついたもぎたての果実のような言葉でした。
どんな言葉だったのか……は、皆さんのご想像にお任せします。
[季語] 泳ぎ
[季節] 夏
飛ぶ夢を見たくて夜の金魚たち
愛らしく、涼しげな金魚は、もともと人間が観賞するために人工的に改良された魚です。そのため、室内に置かれた水槽や金魚鉢の中で飼われていることがほとんど。
いつも、いつも狭い水槽の中で泳いでいる金魚たち。鮮やかな体を美しくひるがえしながら、長い尾びれをヴェールのように優雅に揺らしながら、1日中、人の目を楽しませてくれていた金魚たちも、夜が訪れ、人々が寝静まると、きっと眠りにつくのでしょう。そして、夢を見るに違いありません。
金魚たちの夢−−それはやはり、この狭い水槽から出て、自由な鳥たちのように、広い広い大空を思う存分飛びまわってみたいという夢なのではないでしょうか。
[季語] 金魚
[季節] 夏
別れ来て夕焼に置くイヤリング
その日、私は長い間つきあってきた恋人との別れを決意していました。彼にその意思を告げ、最後の言葉を交わし、夕刻になって自分の部屋へと戻ってきました。
男性が帰宅するとまずネクタイをほどくように、女性は、家に戻ってくると、一番最初にイヤリングを外します。それは、わずかな解放感を味わう瞬間。外したイヤリングを夕焼けで赤く染まった窓辺にカチャリと置いたとき、“あぁ、これで終わったんだ……”そんな想いが胸に込み上げてきました。
1日の終わりを鮮やかに彩ってゆく夕焼け。夕焼けの翌日は晴れるということを、その時の私は知っていたのでしょうか?
[季語] 夕焼
[季節] 夏
手の届くところに君がゐて涼し
仕事のせいであったり、家の事情であったり、いつもは離れて暮らしている大好きな彼ですが、今日は違います。手を伸ばせばすぐに触れられる距離に、呼べばすぐ答えてくれる距離に彼がいるのです。
木陰に吹いてくる一筋の風、澄んだ音を奏でる風鈴、青空に高く噴き上がる噴水、グラスの中で揺れる水中花……etc。暑い夏の日盛りに涼しさをもたらしてくれるものはいろいろありますが、今日の私が涼しさを感じられるのは、こんなにも近くに彼がいてくれるからこそ。
私たち2人の恋も、さわやかに、そして、とても涼しく進展していきます。
[季語] 涼し
[季節] 夏
そして渚にひと夏の忘れもの
いろいろなことがあった今年の夏だったことでしょう。恋が始まった人、恋が終わった人、夢をかなえた人、夢をあきらめた人。泣いたり、笑ったり、ケンカしたり、寄り添ったり……。
人の気配も薄れ、夏が終わろうとしている渚には、たくさんのものが打ち上げられています。いったいどれほどの人々が、今年の夏のひとときをこの渚で過ごし、どれほどの物語がこの渚で生まれたのでしょうか。片方になったビーチサンダル、空き缶、燃え尽きた花火、切れた貝殻のネックレス……etc。それは、いろいろな人たちの夏の思い出の残骸。
この夏、この渚で起こったたくさんの物語のかけらたちなのかもしれません。
[季語] 夏
[季節] 夏
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