黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

掃き寄せし塵の中より冬の蜂

 庭に散った落葉やゴミを掃き寄せて作った小さな塵の山の中から、よろよろと1匹の冬の蜂が出てきました。もう飛ぶ力もなく、息も絶え絶えといった様子なのですが、その姿は、まるで「自分はまだ生きているぞ! ゴミと一緒にするな!」と言わんばかり。間もなくその蜂は死んでしまうのでしょうが、それでも、今、その蜂は枯葉やゴミなどでは決してなく、明らかに“一つの命”なのです。塵の中からよろよろと現れた哀れな冬の蜂に、逆に、命の強さを、生きているという確かな灯を見たように思えたのです。

[季語] 冬の蜂
[季節] 冬


春隣病めるときにも爪染めて

 かつて私が肝臓をわずらい、しばらく病床にあったときの一句です。外出も できず、人に会うこともできない身だったのですが、女性として装う心だけは 忘れたくありません。マニキュアを美しく塗ってみたり、可愛いパジャマを買 ってきてもらったり、病床でも楽しめるお洒落を精一杯楽しんだものです。 “春隣”とは、春がもうすぐそこまできているという意味の冬の季語。季節の 移り変わりとともに、病気が快方に向かっていくのではないか、病が癒えれば 新しい恋もできるのではないかと、爪を染めながら、新しい暖かな季節への期 待や予感に胸をふくらませていた私です。

[季語] 春隣
[季節] 冬


会ひたくて逢ひたくて踏む薄氷

 会いたくて逢いたくてしかたないのに、会いに行けない人がいました。早春、水たまりに張った薄い氷を靴先で戯れに踏みながら、会いたいという思いを持て余すばかり。 好きになれば、その想いのまま、何のためらいもなく会いに行ける人もいるのでしょうが、私には、どうしても会いに行く勇気が持てず、その薄氷の手前でとどまったまま。春先にうっすらと張った氷のように、ほんの少しの衝撃にもすぐに壊れてしまいそうな繊細な想い。恋にとても傷付きやすくなっていた頃の一句です。

[季語] 薄氷
[季節] 春


恋みくじ開けば春の雪明り

 梅の花が開きかけた頃の東京は湯島天神を訪ねたときのことです。境内の一 角に、恋を占うおみくじをみつけました。その日はちょうど、名残りの雪が降 り積もり、境内は一面春の雪景色。恋みくじを開くと、春の雪明りが後ろから さっと差し込むようにおみくじの文字を照らしてくれたのです。明るい春の雪明りに照らされたそのおみくじには、新しい恋を予感させる嬉しい言葉。春の雪明りの眩しさは、これから訪れる素敵な未来も照らしてくれているようでした。

[季語] 春の雪明り
[季節] 春



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