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[English]
這ひ這ひに伝ひ歩きに風薫る
5月になり、新緑が美しい季節となりました。青葉若葉を吹き抜けてきた風が、青く、すがすがしく匂うさまは、まさに「風薫る」という言葉そのもの。
初夏の爽やかさに、窓を大きく開け放った保育園。中では、たくさんの子供たちが元気に遊んでいます。まだはいはいをしている子供、ようやく伝い歩きができるようになった子供と成長の過程はさまざまですが、どの子供にも同じように薫りくる爽やかな風。子供たちと一緒に戯れながら、健(すこ)やな成長を願い、見守っているかのような初夏の風です。
[季語] 風薫る
[季節] 夏
母の日のいつもの母でありにけり
5月の第2日曜日は「母の日」。この日私たちは、母親にカーネーションやプレゼントを贈ったり、家事を手伝ったり、食事に出かけたりして、母親への感謝を表し、日ごろの労をねぎらいます。
私たちは、母親にプレゼントを贈ったり、ちょっぴりお手伝いしたりすることでうんと親孝行をしたような気分になっていますが、よく考えてみると、朝一番に起きるのも母、食事を作るのも母、1日の家事を終え、一番最後に床に就くのも母……。母の日といっても、お母さん自身には、普段の日と同じように家族のためにやらなければいけないことがたくさんあり、いつもどおり家族のために働いてくれているのです。
だけど、こんなふうにいつも変わらないお母さんだからこそ、家族は安心できるのでしょう。
[季語] 母の日
[季節] 夏
薔薇香るヒロインの名を冠せられ
薔薇(ばら)の花には、とてもたくさんの種類があります。そのうえ次々と新種も誕生し、その度に新しい名前がつけられていきます。姿はもちろん、香りも華やか。そして、名前さえも妍(けん)を競っているかのような薔薇の花は、やはり花の中の女王と言えるかもしれません。
それは、ある薔薇園を散策していたときのことです。ふと足を止めた一株の薔薇に、“カトリーヌ・ドヌーヴ”という名前がつけられていました。そのままでも充分美しく香るその薔薇の花。しかし、フランスの美しい映画女優の名を持つと知った途端、私には、その薔薇が一層気高く華やかに香り立つような気がしたのです。
[季語] 薔薇
[季節] 夏
蔦葉振り切るやうに柩発つ
柩(ひつぎ)を乗せた霊車が、葬儀の終わった民家から火葬場へ出発しようとしています。家の壁を這う青くみずみずしい蔦(つた)の若葉を、たくさんの見送りの人々を振り切るようにスピードを上げ、去っていく霊車。それはまるで、不帰の客となったその人が、住み慣れた家への、懐かしい人々への、そして今生への未練を断ち切るかのよう。
新緑に萌える蔦若葉。生命力あふれ、目にまぶしいほどの蔦若葉が、残された人々の悲しみをさらに深くへと誘(いざな)ってゆきます。
[季語] 蔦若葉
[季節] 春
結婚を夢見し頃のさくらんぼ
かわいらしい形と色、甘くてほろずっぱい味、そしてちょっぴり高めのお値段……。少女のころの私には、さくらんぼはまるで宝石のように思えたもの。すぐに食べてしまうのはなんだかもったいないような気がして、しばらく揺らしてみたり、眺めてみたり、舌の上で転がしてみたり。なかなか食べることができず、いつまでも大事にもてあそんだものでした。
大人となった今でもさくらんぼは大好きですが、子供のころのように、さくらんぼ1つをあれほど大切に扱うことはもうできません。夢がたくさんあり、結婚にもとてもあこがれていた少女のころのさくらんぼと、大人となり、夢は夢、現実は現実と分別がついてしまった今のさくらんぼ。もう一度、あのころのような気持ちでさくらんぼを含みたいなと思うのですが……。
[季語] さくらんぼ
[季節] 夏
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