黛まどか「17文字の詩」タイトルカット



[English]

萩すすき紅さすための薬指

 出かけてゆく時の女性の支度には華やぎがあるもの。これからどこへ、だれと会いにゆくのか、それは別れの装いなのか、新しい何かが始まる装いなのか……。ともあれ、この後のさまざまなドラマの始まりを予感させるプロローグの紅をさしている女性。紅をさそうとのぞき込んだ鏡台の中に、あるいは窓の向こうに、庭に咲いた萩の花やすすきが揺れています。

 薬指は別称“紅差し指”とも呼ばれるように、女性は紅を塗ったり、伸ばしたりするとき、何気なく薬指を使います。ふだんはあまり使われない薬指ですが、紅をさすのもそうですし、婚約指輪や結婚指輪をはめるのも薬指。女性にとって薬指は、男性のそれとは違う、とても大切な意味を持っているのかもしれません。

 薬指の動きに添って美しく彩られてゆく女性のくちびる。そして、くちびるを彩ってゆく薬指。特別な日の紅をさす日本女性の姿を、秋のしみじみとした気配が取り巻いています。

 またこの句は、「すすき」「さす」「くすり」とサ行のリフレインによる音の響きも楽しんでいただけます。

[季語] 萩、すすき
[季節] 秋


君を想へば気まぐれに飛ぶ星よ

 秋の澄んだ夜空を見上げながら恋しい人のことを考えていると、視界の彼方に突然スーッと星が飛んでゆきました。流星は、待っていてもなかなか現れませんし、いつ、どこから現れるのかも、どこへ消えてゆくのかもわかりません。一生懸命見ようとしていても、あまりにも突然現れるため、少しぼんやりしていると見逃してしまったりもします。

 彼に対する不安感、いとおしさ、トキメキ……。そんな思いを巡らしているときに、何の前触れもなく現れ、飛び去っていった流星。思いがけなく優しくしてみたり、急にそっけない態度をとってみたり。まるで、今しがた考えていた彼の気まぐれな行動のように、いまひとつつかみきれない彼の気持ちのように、気まぐれに飛んでゆく流星です。

[季語] 飛ぶ星
[季節] 秋


秋風に跼み応ふる気などなし

 秋風の吹く街を恋人と一緒に歩いていた女の子。彼に何かを問われた途端、急にふっと道端にかがみこんでしまいました。あれ? 一体どうしたのだろう……。わけがわからず戸惑う彼。だけど、彼女に深い理由があったわけではありません。突然、道端にかわいい花を見つけたのかもしれないし、少し歩き疲れただけなのかもしれません。女の子ならではの気まぐれで、とにかくいたずらにかがんでみせただけなのです。

 ちょっぴり困り顔の彼の「どうしたの?」という問いかけにも、いっこうに答える気配はありません。彼のことを少し困らせてみたい、もう少し彼を心配させてみたい……なんて、女心の計算が働いているのかもしれません。

[季語] 秋風
[季節] 秋


団栗の拾はれたくて転がれり

 今、ちょうど木から落ちてきたのか、気が付かず蹴ってしまったのか、目の前の足元をどんぐりがコロコロと転がってゆきました。殻斗(かくと)と呼ばれるおわん型の殻をかぶったその姿が、なんだか人の顔のようにも見えるかわいいどんぐり。そんなどんぐりが転がってゆく様はまるで、「自分のことを拾ってよ! 一緒に遊んでよ」と言っているかのようです。

 この句はあくまでも客観写生の一句ですが、人間にもこういうことはありますよね。例えば、みんなに注目してほしくて急に泣き出す子供、好きな人に近付きたくて、目の前でわざと失敗をしてみせる女性……etc。皆さんにも心当たりはありませんか?

[季語] 団栗
[季節] 秋


大切なもの皆抱へ冬に入る

 「冬に入る」とは、陽暦で11月7〜8日に当たる「立冬」のこと。俳句ではこの日から季節は冬に入るとされています。

 「幸福になりたいのなら、持っているものをひとつ捨てなさい」とよく言われます。もちろん、そんなことは百も承知。それに、多くのものを両手に抱えたままでいることは、とても脆いことだともわかっています。だけど、恋も、仕事も、家族も、友人も、趣味も、夢も……何もかも今のまま手放さず、さらに次のものを欲しがるのが今どきの若い女性の特徴。今、大切にしているものを手放すことなど絶対にできないものです。

 さらにこれから寒い冬に向かうにあたり、ひとつでも手放すことは、心の中にぽっかりと穴が空くようで、とても寂しいもの。結局、何ひとつ手放すことができないまま、冬へと入ってゆく私です。

[季語] 冬に入る
[季節] 冬




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