【6】栃木県小山市間々田〜国分寺町〜栃木市惣社町
紐を組む玉の音に降る桜かな−ノエ

 【4月10日】芭蕉が2日目の宿を取った間々田を出発。今日は、惣社町大神神社にある歌まくら「室の八嶋」へ向かっています。歩き始めて数分、国道4号沿いに「間々田紐(ひも)」という看板を見つけました。

紐を組む玉の音に降る桜かな
間々田紐を組む実演を見せてくれた渡辺悦子さん

 何だろうと思い店内に入ると、あかね色や若草色など色鮮やかなひもを使った帯締めやアクセサリー、携帯電話ストラップといった古今の小物雑貨が美しく並んでいます。私たちに気づき、声をかけてくださったのが店主の奥様、渡辺悦子さんでした。聞くと、ここは日本で唯一の間々田ひものお店。奥の座敷で商品を作り、ここで販売しているのだそうです。

 ちなみに間々田ひもとは、甲や刀の下げ緒(お)として愛用されてきた組みひもをもとに、初代渡辺浅市氏が考案した渡辺家独自の組みひものこと。草木染の絹糸を手組みした間々田ひもは、色彩の美しさのみならず、緩まないことで高く評価されているそうです。

 驚いたのは、その技法が一族の女性たちによってのみ受け継がれているということです。ひもを組む様子を見せていただきたいとお願いすると、悦子さんは組台の前に正座し、息を整えました。台の周囲には幾本もの組み糸がかかり、糸の先には「玉」と呼ばれる木製の糸巻きがぶら下がっています。そして、悦子さんが糸を組み始めると、玉と玉とがぶつかり合うかすかな音が、部屋に静かに広がり始めました。

 コトリ、コトリ……。何十年にもわたり女たちの汗や油が染み込んできた幾つもの玉。その玉が奏でる音は、なんとしっとりまろやかなことでしょう。障子の向こうは春らんまん。女たちが響かす玉の音は、季節の移ろいの中で、これからも静かに時を刻み続けてゆくのです。

 女たちが継ぎ、女たちが生む間々田ひもの美しさ、緩まない確かさ。私たち月刊ヘップバーンの歩む道を、私たちの俳句のあり方を、この間々田ひもに教わったように思います。

(浅木ノエ=月刊ヘップバーン)

 <同行者>加島陽子
 <歩行距離>17・1キロ
 <歩数>38130歩