心のキズいやす優しさ
11月16日、マレーシア・ジョホールバル、運命のイラン戦。ラルキン・スタジアムの日本ベンチの一番左端で、岡田武史監督(41)は小さくなっていた。右肩を小野剛強化委員(35)にピタリと付け、左肩をベンチの柱に押し付けるように小さくなっていた。限られたスペース。少しでも選手がゆったり座れるように、岡田監督は体を縮めていた。
さりげない優しさ。岡田監督は、人の気持ちを思いやることを忘れない。10月下旬の静岡合宿、非公開練習では報道陣に「ご協力お願いします。一緒に戦いましょうよ」と付け加えるのを忘れなかった。同26日のUAE戦(国立)後、カズに生卵がぶつけられた騒ぎを聞くと、「責任はすべて私にある」と選手をかばった。常に心配りを忘れなかった。
家族に対しても同じだ。監督就任に際しても、家族の存在を忘れていない。加茂前監督の更迭劇があった中央アジア遠征からの帰国後、妻八重子さん(43)は父岡田正雄さん(72)に電話をしている。「主人が監督を引き受けるかどうかで悩んでいるんです。予選の成績いかんで子供たちがどんな目で見られるか分からないと言って」。
正雄さんは言う。「息子が選手と同じ視線で接する人物だと評価されているとしたら、それはうち代々のもの」。正雄さんを含め兄弟3人はみんな医師。「3人とも、人に接することの大事さは分かる。病は目に見える所を治せば済むんじゃない。心の傷も治療して、信頼関係を築いてこそ変化が起こるんだ」。父の教えが、ギスギスし始めていた代表チームの内部に「変化」を起こした。
監督就任後、岡田監督の元に正雄さんから一通の手紙が届いた。「頂上に人間が登った時、先には下りがあることを忘れるな」。人の心の痛みを、下りの存在を忘れなかったからこそ、岡田ジャパンはW杯出場という頂上にたどりついた。 【サッカー取材班】
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