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自分の国が出場していようがいまいがそんなことはお構いなく、毎日テレビ観戦に夢中の男がいました。この男が、1次リーグ第4組のアルゼンチン―ブルガリア戦を知人とのかけの対象にし、アルゼンチンの肩を持つことにしました。ところがこの男、金に窮していたため、何と自分の妻をかけ金の代わりにしてしまったのです。 アルゼンチンは前回イタリア大会のファイナリストで、スーパースター、ディエゴ・マラドーナのチーム。初戦の対ギリシャをマラドーナの1ゴールを含め4―0の快勝、ナイジェリアとの第2戦もマラドーナの好リードで2―1の逆転勝ちを収めていました。アルゼンチン優位は動かない、万が一にも妻を差し出さねばならぬ事態になるなんてあり得ない、と男が考えたのは無理もありません。 ブルガリア戦を翌日に控え、アルゼンチンにとってショッキングな「大事件」がぼっ発しました。ナイジェリア戦直後の薬物検査で、マラドーナの尿サンプルから5種類の興奮剤が検出されたことが明るみに出たのです。マラドーナは即刻、大会から除外されました。 で、問題のブルガリア戦。大黒柱のマラドーナを欠いたアルゼンチンの0―2の完敗です。 アルバニアではかけに勝った知人が“かけ金”の妻を連れて姿を消してしまいました。負けた男は警察に泣きついたのですが、もちろん後の祭りでした。 米国大会の際にもうひとつ夫婦の悲劇を伝える報道がありました。深夜のテレビ観戦を強要する夫を、頭にきた妻がはさみで刺し殺す事件がスウェーデンで起きたのです。
鈴木 武士・フリーライター
◆鈴木武士(すずき・たけし) 本名・奈良原武士。1937年(昭12)、東京生まれ。61年に共同通信社に入社。運動部記者としてサッカーのW杯などを現地取材。編集委員を経て、97年定年退社。フリーとなりサッカー、つりなどの原稿を執筆。著、編、訳書に「ワールドカップ物語」(ベースボール・マガジン社)、「日本サッカー協会75年史」「ペレ自伝」(講談社)などがある。 |