初の8強に“一生”のプレゼント

ワールド杯エピソード
  [目次]    【12】
 1994年米国大会でのルーマニアの活躍は実に見事でした。30年の第1回大会から出場しているルーマニアですが、34、38、70年大会までいずれも第1ラウンド(34、38年は最初からトーナメントのため)で敗退、久しぶりに顔を出した90年大会でやっとベスト16に進出したもののアイルランドにPK戦負け、と特に目立つチームではありませんでした。

 それが、6回目の登場となる米国大会ではコロンビア、米国に快勝して1次リーグA組を1位で通過。“東欧のマラドーナ”の異名を持つ左利きのプレーヤー、MFゲオルグ・ハジ選手を軸に決勝トーナメント1回戦の対アルゼンチンに3―2の勝利、初のベスト8を決定してしまいました。準々決勝はスウェーデンと2―2の接戦を演じPK戦で涙をのんだとはいえ、ルーマニア国内でテレビ観戦をしていた人々を大感激させる出来だったのです。

 帰国した選手団を迎える歓呼の人の輪の中には首相をはじめ政府要人の姿もあり、サポーターたちの間からは「ハジを大統領に」の声さえ聞かれました(もっとも、ハジ選手は「政治は自分に向いていない。私はフットボーラーなんだよ」と答えていたそうですが……)。この大歓迎の後に続いたのがビッグな贈り物の山です。

 サッカー協会のボーナスは選手一人あたり約350万円と、そうびっくりするほどの額ではなかったのですが、ある実業家からは全員に高級車ベンツを贈るとの申し出があるなどものすごいフィーバーぶりでした。

 中でも風変わりだったのが、某タクシー会社のプレゼントです。

 「わが社のタクシーに生涯、タダでお乗せします」。

鈴木 武士・フリーライター

 ◆ゲオルグ・ハジ 1965年2月5日生まれ。33歳。左足からの攻撃的なパスとFKで、第15回米国大会ではチーム10ゴール中、3得点(得点ランキング10位タイ)4アシスト。当時、イタリアのブレシアでプレーしていた。代表デビューは83年ノルウェー戦。173センチ、71キロ。
 ◆鈴木武士(すずき・たけし) 本名・奈良原武士。1937年(昭12)、東京生まれ。61年に共同通信社に入社。運動部記者としてサッカーのW杯などを現地取材。編集委員を経て、97年定年退社。フリーとなりサッカー、つりなどの原稿を執筆。著、編、訳書に「ワールドカップ物語」(ベースボール・マガジン社)、「日本サッカー協会75年史」「ペレ自伝」(講談社)などがある。
ワールド杯メーン