予選で大ポカ海外へ「逃亡」

ワールド杯エピソード
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 ホンジュラス代表のリチャードソン・スミス選手が1996年末に突然、隣国エルサルバドルのルイス・アンヘル・フィルポというクラブへ移籍しました。サッカー選手の移籍は日常茶飯事。ことさら取り上げることもないのですが、スミス選手には、やむにやまれぬ事情があったのです。

 MFのスミス選手はフランスW杯の北中米カリブ海地域予選の対メキシコ第2戦で、大ポカをやってしまったのです。ホンジュラスは北中米カリブ海地域予選の第2ラウンドでメキシコなど3カ国と最終ラウンド進出権を争いました。ジャマイカとは1分け1敗、メキシコ、セントビンセントには勝ち2位以内での通過が可能な位置にいたのです。

 そしてメキシコとの第2戦。スミス選手は自陣ペナルティーエリア近くでボール処理を誤り、サポーターたちから非難ごうごうの失点の原因をつくってしまったのです。ゲームはホンジュラスが1―3で敗れ、フランス行きの望みを絶たれました。

 その夜、発火物などで武装したサポーターたちが、スミス選手の自宅を襲いました。これがスミス選手に「僕自身の安全のため」と、即座に国境を越えエルサルバドルのクラブに身を投じる決意をさせたのです。

 エルサルバドルといえば、70年メキシコW杯地域予選の試合が引き金となって、ホンジュラスと本物の戦争を繰り広げた国。それだけに余計、この移籍劇は話題となりました。

 付け加えますと、予選第2ラウンドの最終結果は1位ジャマイカ、2位メキシコ、3位ホンジュラス、4位セントビンセント。最終ラウンドはメキシコ、米国、ジャマイカが上位を占め、フランス大会出場権を獲得、ジャマイカは本大会1次リーグで日本と対戦することになりました。

鈴木 武士・フリーライター

 ◆エルサルバドル共和国 中米の中で最も面積が小さく、最も人口密度の高い国。人口約530万人。1835年に独立を果たしたが、79〜91年にかけて内戦が続いた。公用語はスペイン語、首都はサンサルバドル。
 ◆鈴木武士(すずき・たけし) 本名・奈良原武士。1937年(昭12)、東京生まれ。61年に共同通信社に入社。運動部記者としてサッカーのW杯などを現地取材。編集委員を経て、97年定年退社。フリーとなりサッカー、つりなどの原稿を執筆。著、編、訳書に「ワールドカップ物語」(ベースボール・マガジン社)、「日本サッカー協会75年史」「ペレ自伝」(講談社)などがある。
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