2004/07/24
たかが消化試合、されど…
7月31日。世間的には単なる月末に過ぎないこの日、大リーグの各球団、選手は大きな分岐点を迎える。別にボーナス支給日でもなければ、税金の支払い締め切りでもない。ほかでもない、トレードのデッドラインである。
米球界内で、トレードの重要性は極めて高い。特に優勝争いの真っただ中にいるチームにとって、シーズン中のトレードがプレーオフ進出を左右すると言っても過言ではない。各チームのフロント陣は、残り2カ月を戦い抜くために、チームの不足点を補うことに躍起になる。逆に、優勝争いから脱落したチームは来季以降の布陣をにらんで、成績と不釣り合いな高年俸選手を放出し、他チームの期待の若手を獲得。目先の勝利にとらわれず、完全に育成モードに切り替わる。その潔さたるや、日本人の理解の域を超えている感すらある。
開幕直後からつまづいたマリナーズは、首位から大きく引き離された6月下旬、早々とスイッチを切り替えた。今オフFAで超大型契約が確実な先発の柱・ガルシアをホワイトソックスに放出し、若い捕手・オリボ(プラス2人のマイナー選手)を獲得。ここ数年アキレス腱となっていた正捕手の補強と年俸抑制の「一石二鳥」トレードに踏み切った。
さらに、オーリリア、オルルードと2人のベテラン内野手2人、ボカチカ外野手に戦力外通告。それらの枠を空けてまでマイナーから続々と若手選手を引き上げ、大幅な再編に着手した。
この種の切り替えは、米国球界での常識であり、異論を挟むやからはいない。逆に、プレーオフ進出を狙うチームが的確な補強をしないと、選手の士気にも影響を及ぼし、さらに厳しい批判さえ受ける。実際、昨季のマリナーズは得点力不足がハッキリしていながら効果的なトレードに失敗。デッドライン直後、主力の1人ネルソンが「このチームは勝つ気がない」とフロントを批判し、数週間後にウエーバー公示選手同士の交換で、ヤンキースへ移籍した。結果は、ネルソンの言葉通り、マ軍はプレーオフ出場に届かずじまい。7月31日の時点でてん末は見えていた。
確かに、早々と「Give Up」して消化試合にしてしまうのは、入場料を払って球場に足を運ぶファンに失礼、という考え方もあるだろう。ただ、現実的に15ゲーム前後の差があれば、逆転することはほぼ不可能。それならば、将来性のある若手に希望を見いだそうとするのも、決して悪い策ではない。
マ軍の場合、球宴後に昇格した大砲候補、バッキー・ジェイコブセン内野手(28)が、21日のサヨナラ弾をはじめ6戦3発と大ブレーク。でっぷりとした体型にスキンヘッド、ヒゲ面と、独特の風貌もあって、一躍シアトルの人気者になった。時期としても夏休みの観光シーズンで、これに「バッキー効果」も重なって、セーフコ・フィールドの客足は落ちていない。20日のレッドソックス戦にいたっては「満員御礼」。とても最下位チームの試合とは思えないほどである。ジェイコブセン以外でも、若手選手を次々に起用。少なからず、今後への期待が膨らむ試合を続けている。
日本球界では、昨年終盤、失速した巨人原監督(当時)に対し、渡辺オーナーが「3連敗したら(監督留任は)白紙」と発言したことを機に、辞任劇が巻き起こった。
それぞれにチーム事情があるため、単純な比較はできないが、日米間でチーム編成や再建・育成に関する考え方は根本から違う。さらに言えば、球団経営のスタンスやビジョンには、もっと大きな格差がある。
行き先の見えない球界再編問題を例に挙げるまでもない。消化試合の在り方にしてもしかり、である。米国流がすべてではないが、日本球界に今もっとも必要なことは、謙虚な姿勢ではないだろうか。
【米国駐在 四竃(しかま) 衛】
◎このコラムは毎週木曜日更新予定です
四竈 衛(しかま・まもる)

日刊スポーツ東京本社野球部。北関東支局を経て、巨人、ヤクルトを担当。98年から米国に駐在し、メジャー担当。全米野球記者協会(BBWAA)会員。90年入社、38歳。
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