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2003/07/24
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密度の濃い〜47分 こんな映画があってもいい
―茄子 アンダルシアの夏(26日公開)―
2時間超えは当たり前、3時間を超える作品もめずらしくない最近の映画界で47分、しかもアニメとなると軽〜いイメージを持ってしまうかもしれない。が、これがなかなかどうして。風を切る音を実感させるような自転車レースのてん末を縦糸、一人の女性を巡る兄弟の愛憎を横糸に、鮮やかに織り上げられた密度の濃い作品になっている。
自転車レースのアニメ化は、この世界では勇気のいることなのだという。自転車の構造はただでさえ絵にしにくい、加えてこれに乗る人間との大きさのバランスがわずかに崩れても不自然なものになってしまうのだ。さらに「じゃりんこチエ」なら1台で済むが、レースとなるといっぺんに数十台が画面に登場、しかもこれが疾走するのだからアニメーター泣かせであることは素人にも理解できる。
【縦糸】舞台は「ツール・ド・フランス」と並ぶ3大レースの一つ、スペインの「ブエルタ・ア・エスパーニャ」。主人公のぺぺは地元出身のプロレーサーだ。レースはそれぞれにスポンサーの付いた集団同士の争いであり、集団のメンバーはそれぞれがペースメーカーや風よけの役割を果たしながら、その集団のエースに有利にゲームを運ばせる。ぺぺはペースメーカーとして先行して走る役割である。ところがレース途中、監督からの指示を受けるイヤホンで、偶然にも自分がこのレースを最後に解雇される運命であることを知ってしまう。
ステンレスというよりはアルミの触れ合うような振動幅の少ない軽い金属音が目まぐるしい映像の疾走感を加速する。レーサーの集団を背後からとらえたアングルのスケール感にはため息が出る。無数にうごめくヘルメットをなめ、その向こうにくねった舗装道路が続き、さらに周辺の美しい田園風景、文字通りの紺碧の空…。アニメの特性を存分に生かした奥行きの深さだ。
で、過酷な運命を知ってしまったぺぺであるが、一転、その後のアクシデントで所属集団のエースがリタイアし、集団の運命は彼に委ねられることになる。レース終盤、後ろからまくってくる各集団の強豪をぺぺは振り切ることができるのだろうか−−。
【横糸】レースのこの日は、実はぺぺの兄アンヘルの結婚式の日でもあった。相手のカルメンはぺぺの元恋人、彼が兵役に出ている間に兄のものとなってしまったのだった。ぺぺがレース後半必死になるのは、プロレーサーを解雇されれば兄夫婦と同じ故郷の村で暮らさなくてはならなくなるからだ。カルメンへの変わらない思いを胸に秘めながら、優勝を結婚の祝いに捧げ、プロレーサーとして次のレースの地へ向かう−−彼の胸には絵に描いたような“男の美学”を貫こうという思いがある。
そういえば、エンディングテーマは日活「渡り鳥シリーズ」でさすらいの男の美学を貫いた小林旭の「自動車ショー歌」の替え歌である。なんか関係あるのだろうか。カラオケ屋でまれにオヤジが歌うこのダジャレソングを忌野清志郎が「自“転”車ショー歌」として歌っている。ともあれ、細部に様々なこだわりを感じられるということだ。
細面にメガネをかけたぺぺ、ややごつめのキャラクターの兄アンヘル−−この組み合わせはちょうど10年前のドラマ「あすなろ白書」(フジテレビ系)の木村拓哉と筒井道隆をほうふつとさせる。キムタクは大ブレーク前であり、ヒロイン石田ひかりをはさんだこの三角関係は主演の筒井道隆に軍配が上がるのだった。めがねに指をやりながら「どうせおれなんて」というやや卑屈な雰囲気をキムタクは見事にかもし出していた。今だったら、本人がどんなセリフを口にしようと「なんでおれじゃないんだよ」って空気が漂ってとてもこんな配役はできないだろうけど。そんな10年前のキムタクのシチュエーションが重なって、妙にぺぺの気持ちが分かった気になった。
【織り上がり】 絶妙なバランスで織り込まれた過酷なレースと人間ドラマは終盤ぐんぐん重なりながらゴールとともに一つになる。詳細は明かさないが、ほろ苦さの中にもそれなりのハッピー感がうれしい幕切れだ。
最後に監督・脚本は「もののけ姫」「千と千尋の神隠し」で作画監督を務めた高坂希太郎さん。絵の仕上りが素晴らしいわけである。
【相原斎】
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