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裏CINEMA by相原斎
    2003/07/31 バックナンバーへ

ジョニー・デップにしびれる

―パイレーツ・オブ・カリビアン(8月2日公開)―

 6年前、読者の皆さんとは全然関係ないところでちょっとびっくりしたことがあった。その年3本の映画に立て続けに出演した三上博史(41)が快く2時間余りのロングインタビューに応じてくれたのだ。当たり前のようで、そうではない。彼くらいのクラスになるとメディアの取材に応じるのは出演作のキャンペーン期間に限られる。取材を申し込んだ時はその3本の映画上映も終わり、おまけにまったくのオフだったのだ。
 「映画にこだわっている人の連載記事に協力してもらいたいと思いまして」と事務所に電話を入れると、「そういうことなら渋谷に映画を見に行く予定があるので近くのホテルでどうでしょう」と即OKが出た。新聞の取材は原則ノーギャラである。それ以前に面識もなかった。映画へのこだわりについてならば喜んで話しましょう、という姿勢がうれしかった。

 長い前フリになってしまったが、同世代のジョニー・デップ(40)にも同様の“手弁当感覚”を感じる。近作「ロスト・イン・ラ・マンチャ」は、かなりむちゃな映画作りで知られるテリー・ギリアム監督があの「ドン・キホーテ」の映画化に取り組む様子を撮影したメーキングものだ。
 といっても、超大作となるはずの「ドン・キホーテ」はいまだに未完成であり、「ロスト――」では嵐によるロケセット流出、米軍機の爆音による撮影中断など映画人にとっては悪夢のような苦闘ぶりがブラック・ユーモアの匂いをかもしながら描かれる。ところが、主演のデップはまったくくじける様子がない。仕事のない日も監督の部屋をジーンズ姿でふらりと訪ね、役作りについて延々と語り合う。スポンサーを招いて撮影の順調ぶりをアピールする場ではしっかりと笑顔をふりまく。日当だけで家が建ちそうなハリウッドのトップ俳優の無償奉仕。この作品でデップが本当に好きになった。

 で、本題の「パイレーツ・オブ・カリビアン」である。彼が演じるのは一匹狼の海賊ジャック。脚本を読んで役作りのモデルに選んだのがローリング・ストーンズのキース・リチャーズだという。何やら不可解だが「既成のルールに縛られるのを嫌う海賊は今でいえばロックスターのような存在」というデップの弁を知り、さらに映画を見ると大いに納得なのである。
 呪いをかけられた海賊の一団がその呪いを解く鍵を握る美女(キーラ・ナイトレイ)をさらい、彼女に思いをよせる勇敢な若者(オーランド・ブルーム)が美女を救いだそうと冒険の旅に出るというストーリーでデップ演じるはぐれ者の海賊は時として若者に協力し、時として裏切りながらからんでいく。実は彼こそがかつてその一団を率いた伝説の海賊だったこと、根は“いい男”であることが分かっていくという仕組みだ。「スター・ウォーズ」(77年)でレーア姫とルーク・スカイウォーカーにからむハン・ソロ船長(ハリソン・フォード)の関係にやや近いものがある。

 紋切り型に海賊ぶったり、腕が立つところを見せるわけではないが、真意をくみ取らせない穏やかな目がパワーの奥行きのようなものを感じさせる。やや内股風の妙な歩き方も見慣れてくると優雅なんだよね。柔軟で機知に富んだ彼の生き方を象徴しているような。確かにキース・リチャーズのかっこよさに通じるものがある。この役、やっぱりデップでなければ、彼の脚本の読解力なくしては出来なかっただろうなと実感させられてしまう。今回の監督は最近ではハリウッド版「ザ・リング」で知られるゴア・ヴァービンスキー。ホラー映画の傑作「エルム街の悪夢」(84年)でデビューし、このテの作品が大好きなデップのことだから、ホラー映画の話題にも花咲かせながら、きっと役作りの話し合いを今まで以上にねっこりとやったことだろう。
 付け足しのようになってしまったが海賊船と英国軍の戦闘シーンもあるしスケールは大きい。ちなみにいい年をしながら年に1回は行く東京ディズニーランドで必ず立ち寄る、つまりけっこう好きなアトラクションが「カリブの海賊」なのだが、この映画はあの雰囲気にけっこう近いものがある。これは実感だ。

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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