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裏CINEMA by相原斎
    2003/12/25 バックナンバーへ

天袋の恐怖

―着信アリ(1月17日公開)―

 天袋(てんぶくろ)―辞書を引けば床の間のわき、または押入れの上部にある戸棚、とある。私が言いたいのは後者の方である。携帯電話を題材に文字通り“現代の恐怖”を描いたこの映画で、旧来から日本家屋の定番である天袋に何ともいえない怖さを感じさせられるとは思わなかった。

 天袋にスポットが当たるのは中盤。「死の予告電話」のナゾを究明すべく、主人公の由美(柴咲コウ)と相手役の山下(堤真一)が関係者のアパートを訪ねるシーンだ。ふと気が付くと天袋の中からこちらを見つめる髪の長い女性…これは幻影なのか、錯覚か。直後、その中から物語のポイントとなるビデオカメラが発見されるのだが、背伸びしながら天袋に手を突っ込む山下に思わず「止めといたほうがいいぞ」と心の中でつぶやいてしまった。そこには何かが起こりそうな“空気”があった。

 個人的な話で恐縮だが、子供のころ自宅の天袋でミイラ化したネズミの死骸を目の当たりにしてしまったことがトラウマになっているのかもしれない。そのあばらや尾の形状は細密なモノクロ画のように記憶に残っている。幼児体験は恐ろしい。

 だが、それだけではない。背伸びして奥のほうを手探りしたり、踏み台にのった状態でしか中を見られなかったり―もともと不安定な状態を強いられるのが天袋である。“ぶっ飛んだ極道モノ”で知られる三池崇史監督だが、日常生活に根ざした心理を随所に織り込みながら、きめ細かく恐怖を盛り上げている。ちなみ私が幼児体験を思い出したのも、実は映画の中でも幼児体験がキーワードになっていたからかもしれない。

 映画は合コンの席で始まる。由美の友人・陽子の携帯が突然鳴って「着信アリ」のメッセージ。不可解なことに発信者は陽子自身で着信時刻は3日後、悲鳴のような留守録が入っていた。陽子は3日後に留守録そのままの悲鳴をあげてナゾの死を遂げてしまう。その後、合コンの参加者が同様の経緯で次々に死んでゆく。彼らは携帯番号を交換しており、死んだ人間の携帯から何者かによって登録番号がたどられ、死を意味する「着信アリ」が連鎖していく展開だ。 由美は友人たちの葬儀で知り合った葬儀屋の山下とともに、その連鎖のナゾを探っていく。実は山下の妹も同様の死を遂げており、また、合コン仲間に携帯番号を登録させていた由美自身にも死は刻々と迫っていた――。

 携帯電話を題材にしたものでは韓国映画の「ボイス」(03年7月)があり、死の連鎖はあの「リング」(98年)をほうふつとさせる。だが、秋元康氏の企画・原作は合コン場面を導入部分に、劇中に吸い込まれるような巧みさがある。細部には触れないが、幼児虐待が主人公と「着信アリ」を結びつける重要な要素になっている点も現代風といえるだろう。由美の親友なつみ(吹石一恵)が着信メッセージの死の予告時間にテレビの情報番組に生出演するなど、結果を予測しにくい見せ場もあってホラーものを見慣れた身にも刺激は少なくない。ちなみにこの生出演エピソードの幕切れはいかにも三池監督らしい大胆さだ。

 柴咲が強めのキャラクターな分だけ、怖がるとインパクトがある。やっぱり目がすごい。前述した天袋を見上げるシーンなどは典型である。他では、山下の友人の“死体マニア”にふんした岸谷五朗が好演だ。NHK朝のテレビ小説「てるてる家族」の気のいいお父さんもいいけれど、猟奇的な雰囲気が入ったこの役には、本当にはまっている。

(このコラムの更新は毎週木曜日です)

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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