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裏CINEMA by相原斎
    2004/06/10 バックナンバーへ

「催眠」は劇薬だ

―ヒロイック・デュオ(6月19日公開)―

 97年から98年にかけてフジテレビの深夜帯に放送された「A女E女」は放送当時から日本一下劣なバラエティーという評価が定着していたのだが、目を離せない番組でもあった。「馬にも催眠術をかけられる」という日本一の催眠術師・松岡圭祐氏が登場し、AV女優たちに催眠をかける。以後も何事も無かったようにふるまっている女の子たちが、太鼓やドラなどの鳴り物をきっかけに突然もだえ始めるのである。鳴り物=エクスタシーの暗示をかけられていたのだ。それだけのことなのだが、女の子を思いのままに操るという男の夢を体現して、私たち(私だけか?)のスケベ心をクギ付けにしていたのだった。

 それだけ、だった番組はあえなく消えていったが、松岡氏はその後小説を発表し、「催眠」が稲垣吾郎主演で99年に、「千里眼」が水野美紀主演で00年にそれぞれ映画化され“催眠パワー”をふりまき続けた。人心を自在に操る催眠はサスペンスの世界にも劇的効果を与えた。登場人物は自身の意思によって行動しているのか、それとも…見る者は常に惑わされ、どんでん返しの連続に結末はがぜん読みにくくなった。

 このコーナーでも以前取り上げた「インファナル・アフェア」の成功で元気のいい香港映画界が催眠を題材に取り入れたのが今作である。しかもメガホンを取ったのが「インファナル−」のアラン・マック監督の師匠筋にあたるベニー・チャン監督だから期待は高まる。

 香港警察で1人の刑事が資料を盗み、保管庫に放火するという事件が起こる。生真面目な男がなぜ? 理由も分からないまま彼は自殺する。特捜部のリー刑事(イーキン・チェン)は彼の残した言葉から催眠にかけられていた可能性を追う。リーが協力を求めたのは警察の元セラピストで心理学の権威でもあったライ(レオン・ライ)。彼は3年前にパートナーの刑事を射殺したとされ、懲役15年の刑で服役中だった。何やら「羊たちの沈黙」を連想させるすべり出しである。減刑を条件に協力することになったライはこれが高度な技術による催眠犯罪であると指摘し、真犯人をほのめかす。が、その犯人の立ち回り先として連れだって訪れたダイヤモンド展示場でライはリーに催眠をかけ、ダイヤモンドを盗ませてしまう。一転、追われる立場になったリーだが、姿を消したライが自分にメッセージを残していたことに気付く。ライの狙いは何なのか? リーの運命は? 真犯人は? 渦中の2人、香港警察、そして謎の犯罪集団が謎解きのゴールを目指して4つどもえに争い、絡まりあう。

 リーよりもライに重きを置いて事実上の主演にすえているところが、この映画のミソである。わずかなそぶりから相手の心理を読み取り、催眠で自在に操る。殺人罪で服役中のはずだが、冷血漢には見えない。真意をくみ取らせない複雑な人物造形と不思議な魅力は、脚本、演出、演技がフィットした成果だろう。また、犯罪集団のボス、アウ(フランシス・ン)にも単なる悪役ではない人間くさい味付けがほどこされており、催眠という題材の面白さだけでなく、登場人物たちの性格設定にも力が注がれ、手が込んでいる。

 それにしても、ライ役のレオン・ライは谷原章介にそっくりだし、リー役のイーキン・チェンは村上弘明に似ているなあ。

(このコラムの更新は毎週木曜日です)

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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