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2004/10/14
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じわり感動
−隠し剣 鬼の爪(10月30日公開)−
悲しい設定で畳み掛ける、悲劇の末にほっとさせる…。泣かせる映画にはそれなりの仕掛けがある。泣くため、きっとストレス解消の一助にするためにその手の映画を好んで見る人もいる。だが、仕掛けが先に立つ作品は心に残らないものだ。じわりと涙の温かさが後に残る作品にはめったにお目にかかれない。今作はその数少ない1本である。
ほのぼのと微笑ましいラストシーンに、いつの間にか涙腺を温かいものが伝いあがってくるのを感じた。温かいものが瞳の表面を覆って、画面がほんの少しぼんやりした。久々、いや今年5月に「ビッグフィッシュ」(ティム・バートン監督)を見たときに覚えた少しずつ胸に染み渡るような温かさに似ていた。バートン作品は病床の父との別れをメルヘンにくるんだが、今作は武士の時代の終章を今にも壊れそうな−だからこそハラハラさせられる−純愛を通して心温まるドラマに仕上げている。どちらも仕掛けは目立たない。一貫して漂う空気のようなものにいつの間にか取り込まれる。
「たそがれ清兵衛」(02年)に続き、原作・藤沢周平、監督・山田洋次のコンビ作品だ。時は幕末、舞台は東北の小藩。一本気な父は藩命で切腹に至り、貧困の中で武士の体面をぎりぎりで保っている平侍・宗蔵(永瀬正敏)が主人公だ。剣術では藩で2番目の使い手である宗蔵だが、江戸からやってきた教官による大砲や近代戦術の教練に戸惑う毎日だ。女中奉公に来ていた明るい百姓娘きえ(松たか子)が商家に嫁いでしまい、身辺も寂しい。
出だしは「−清兵衛」同様にうだつが上がらない。が、きえが商家で虐待めいた扱いを受け、病床にあると知るや乗り込んで離縁状を書かせる男気を見せる。きえを引き取り、再び生活に明るさが戻ったころ、藩の江戸屋敷で謀反の動きが発覚する。首謀者は剣術門下生仲間で藩随一の剣の使い手、狭間(小沢征悦)だった。家老の堀(緒形拳)は宗蔵にも疑いの目を向けしつこく聴取する。堀は宗蔵の父を切腹に追い込んだ当事者でもあった。そんな中、江戸で捕縛され領内に幽閉された狭間が脱走、農家に立てこもる。宗蔵に「狭間を斬れ」の藩命が下る。きえを実家に帰し、宗蔵は狭間との対決を前に師匠の戸田(田中泯)を訪ね、秘策を授かる。戸田は剣術指南の頃、なぜか秘剣「鬼の爪」を一番手の狭間ではなく、宗蔵にだけ教えていた。狭間との死闘、そして本当の悪に向けた「鬼の爪」…後半のヤマ場については詳述をさけるが、剣豪モノ的な見応えも十分である。
終盤、目的を遂げた宗蔵は武士を捨て、きえの実家を訪ねて求婚する。ここが冒頭で触れた涙腺を温める場面だ。はにかみの中に思いのたけが伝わる土手の上。これほどシンプルな状況がなぜ心を温かくするのだろうか。それまでの身の丈に生きた清貧さだろうか、その地味な存在の中に押し隠していた「爪」があまりに鋭かった驚きの反動からだろうか。ともあれ、恥ずかしながら、エンドロールはぼやけて見えた。
永瀬正敏、松たか子のコンビの現代的な印象からは想像しにくいが、うそのように山田監督の時代劇世界に溶け込み、ラストの土手の上まではみ出た部分を感じさせない。「−清兵衛」に続き田中泯はまた格別の味である。
(このコラムの更新は毎週木曜日です)
【相原斎】
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