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裏CINEMA by相原斎
    2005/03/31 バックナンバーへ

キワの役柄の憎み切れない味

−隣人13号(4月2日公開)−

 中村獅童(32)は昨年暮れの日刊スポーツ映画大賞の授賞式に39度の高熱をおして出席してくれた。主催者側の一員として頭の下がる思いだった。ふらふらでも薄まらない強烈な個性が印象に残った。助演男優賞の対象作は「いま、会いにゆきます」。彼にしては珍しく「普通のお父さん」役である。

 ばくぜんとしたイメージではあるが、こうした普通の役を中心点に凶暴、軟弱、過ぎた正義感など、役柄の個性的な度合いをそれぞれの方向に放射線状に広げてみる。と、そこに出来上がる円の中で獅童が演じてきた役はほとんどがそのキワというかヘリのギリギリの部分にあることが分かる。「ピンポン」(02年)「阿修羅のごとく」(03年)「赤線」(04年)…。怖い、ヘンだ、近寄りたくない。どの役も尋常ではない。だが、ヘリの向こう側にはいかない、つまり作品をぶち壊すような違和感を抱かせないところがこの人の力なのだろう。

 映画大賞のプレゼンターとして一緒の舞台に上がった香川照之は獅童の「いま、会いにゆきます」の演技について「繊細な中に役になりきる力を感じる」と評した。らしくないノーマルな役でも、見る人は映像のワクの中で放たれるその力量を認識しているということなのだろう。

 で、今作は再びキワの役柄である。カルト的な人気がある井上三太の漫画が原作だ。おとなしい青年十三(小栗旬)は実は小学生時代に過酷なイジメを受けていた。彼のアパートの上階に住む赤井(新井浩文)は実は当時のイジメの中心人物であり、勤め先も同じ建設会社だった。が、彼は十三が小学時代のイジメられっ子であることに気付かない。今でも陰湿な後輩イジメを続けていた。ある日、赤井の理不尽なふるまいに十三が腹を立てたとき、彼の中から別人格の13号(獅童)が現われる。十三の怒りを体現した13号は時を経るに従って凶暴性を増し、赤井の妻(吉村由美)やその子もターゲットにするようになる…。

 モラルや優しさは小栗の十三が一手に引き受け、復しゅう心だけの13号は文字通りのモンスターである。だが、赤井の妻に欲望を募らせても、刃物を振りかざしても、その奥に本来の人格である十三の片りんがにじむのは、わずかに間の抜けた、微妙に遅らせた動作や話し方があるからだと思う。そのさじ加減が何とも上手い。

 井上靖雄監督は今回が初メガホン。ビデオクリップの世界ではトップクラスの映像作家で、今回も随所にはっと思わせる色使いやアングルがある。そこに止まらずに獅童というキャラクターを得て人間の機微を描いたところに今後を期待させる。

 新井、PUFFYの吉村のほかにも石井智也、松本実、そして三池崇史監督も怪演で楽しませてくれる。

(このコラムの更新は毎週木曜日です)

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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