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裏CINEMA by相原斎
    2005/07/28 バックナンバーへ

小さなトリップ大きな混乱

−サマータイムマシンブルース(9月3日公開)−

 深夜放送のドラマと劇場用映画には共通点がある。前者はなんとなく、後者は入場料を払ってしまったから、と理由はまったく違うのだが、視聴者(観客)がそう簡単にチャンネルを変えたり(席を立ったり)しないという点である。ゴールデンタイムでしのぎを削るテレビ番組が冒頭に見せ場を持ってきたり、CMが近づくと思わせぶりな前振りをしてチャンネルを変えさせまいと必死になるのとは対照的だ。無理にボルテージを上げたり、小賢しいことをしなくても視聴者(観客)は付き合ってくれる。前半部にさりげなくはった伏線に想像をめぐらせ、後半部の盛り上がりを自然に楽しんでくれる。もちろんバランスのよい演出があってのことだが。

 観客がお付き合いで見てくれるのは全編の何割までで、どの程度の集中力を保ってくれるのか。具体的な指標などないのだろうが、かつて深夜ドラマを手がけていた本広克行監督(40)はその辺のさじ加減を実によく心得ているようだ。

 映画は何のことはない夏休みの大学でスタートする。SF研究会のだらけ気味の面々と暗室が隣にある関係で出入りするカメラクラブの2人の女性。時間を持て余した若者のただのダラダラした日常である。だが、何かが変だ。不自然なセリフもある。そこに突然タイムマシンが現れる。H・G・ウェルズの小説そのままのレトロな代物だ。SF研の面々はさすがに「タイムマシン」と認識するが、その利用方法はセコい。その日、リモコンが壊れてエアコンが使用不能となっていることから、その壊れる前の時点にトリップして無傷のリモコンを取ってこようというのだ。

 1人が1日前の時間旅行に旅立った後に、この騒動を聞きつけた相対性理論専門の万年助手が「さ細なことでも過去を変えたら、現代が消えてしまう」と言い出したから大変だ。リモコンを元に戻すために今度は複数のSF研メンバーが1日前に。ところが、さらにそこで時空をゆがめるような事態が…。

 というわけで、たかがリモコンの故障に端を発したたった1日のタイムトリップの歪みを修正して彼らは正常な今日という日を取り戻せるのだろうか、という“闘い”が繰り広げられる。その過程で前半の「変」だったり、「不自然」だった部分の理由も徐々に解明されていく。

 京都を拠点に知る人ぞ知る劇団「ヨーロッパ企画」の舞台がベースであり、映画の脚本も同劇団の作・演出を手がける上田誠が書いている。先日都内のホールで行われた完成試写ではこのヨーロッパ企画のメンバーが前説を担当し、上映後に監督や主な出演者が加わって舞台挨拶を行った。

 これもひょっとすると、映画鑑賞の前後でモノが違って見えることを“立証”しようという手の込んだ演出なのかもしれない。私のようにヨーロッパ企画の舞台を見たことがない人間にとっては前説はどうにもしまりがなく、スベリ気味に感じられたのである。が、映画を見終わり、それぞれのキャラクターを把握した後の舞台あいさつでは彼らが別人のように見えた。勘どころが分かってけっこう笑ってしまったのだ。

 通常、披露試写会では舞台あいさつは冒頭に行われ、関係者は不安に駆られながらそっと上映中の客席の反応をうかがうものだ。最初から上映後に舞台あいさつを設定していたということは監督以下スタッフに相当な自信があったのだと思う。

 ともあれ、タイムマシンという大仰な道具をまったくの瑣事に使うという発想、それを生かしたほどよい演出で大いに楽しめる作品である。出演者は瑛太、上野樹里、佐々木蔵之介ら。ヨーロッパ企画のメンバーも多数出演している。

(このコラムの更新は毎週木曜日です)

【相原斎】

プロフィル
相原斎の写真 ◆相原 斎(あいはら・ひとし)
 1956年5月27日、東京生まれ。早大卒。80年入社。文化社会部では主に映画を担当。同部デスク、部長を経て現在編集局次長。著書に「寅さんは生きている」(朝日ソノラマ)。
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