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第364回    鈴木京香  
2003.06.01付紙面より

鈴木京香
写真=撮影中、言おうかどうか迷った。10年前、私が通院していた接骨院に京香さんがやってきた。当時流行していたスパイラルテープを説明するため先生に呼ばれ、私の鍛えぬかれた肉体を披露した。恥ずかしさで目を合わすことはできなかったが、京香さんは照れもせず先生の話を真剣に聞いていた。この日も中野記者をしっかり見つめる凛(りん)とした雰囲気が印象的でした。思い切って「私、京香さんの前でパンツ一丁になったことがあるんですが…」と言おうと思ったが、撮影上のリスクを考え言えないまま終わった。
(撮影・川口晴也)

私の名は女優

 デビューから15年、鈴木京香(35)は大女優への道を着実に歩んでいる。「10年後もどんなに忙しくても一生懸命に取り組んでいると思います」と女優業にどん欲な姿勢を見せるが、一方で、これまで「女優と個人的な私は別」としてきた鈴木が「最近、割り切れるようなりました」とプライベートについても語り出した。きっかけは昨年7月に亡くなった父進さん(享年66)の笑顔だった。


表に出る責任

 取材は、看護師役で出演するTBSドラマ「ブラックジャックによろしく」の収録直後だった。「よろしくお願いします」と笑顔で部屋に入ってきたが、衣装は役柄そのままの白衣姿。ふん装でのインタビューとなったが、知的で清そ、ほのかな色気は白衣姿からもにじみ出てくる。デビューから15年、今は誰もが認める実力派だ。

 鈴木 一番楽しくてうれしいのは面白い役を工夫して、面白い台本で演じること。初めて挑戦する役だったり、やりがいのある話だったりするとうれしく感じます。得意な役でもずっと続くとこれじゃいけないと思うので、あえて変えようとします。私の等身大の役を演じようとするとつまらないから、自分なりに色づけ、違う表現を試してみようと思うんです。

 「君の名は」当時のスタッフが「研究熱心で努力家」と評したが、その姿勢は今も変わらない。「ブラックジャックによろしく」で、医療に対しあきらめと希望をないまぜにした感情を見せる看護師赤城カオリを演じている。主演と異なり、鈴木には珍しく画面に出ずっぱりの役ではない。

 鈴木 時折出て、真実味を持たせ、短いシーンでキャラクターとストーリーを確立させないといけないのは大変なこと。先輩が最後に出て来て、すぐ去っていく役の難しさをしっかり、ひしひしと感じてます。

 役作りのために「何でもやっておかないと、何でも見ておかないと」とどん欲な姿勢をみせる一方で、プライベートについては自ら触れることはしなかった。

 鈴木 最近まで、役や作品以外に、私個人に話が向けられていると感じるときはつらかったんです。いたたまれなかったんです。私のプライベートをお見せするなんてとんでもない。それは、自分のことなんておこがましくて、隠したいというか、私個人なんて取るにたらないんでと…。お芝居だけできたらどんなにいいかなと思ったこともありました。でも、今はそれが考え違いだったと思えるようになりましたね。反省しています。

 普段の自分を見せることが、テレビなど表に出る人間の責任と感じ始めたという。

 鈴木 あんまり変なことをしないで、きちんとした人生を送らないと。ファンが見てますから。やっと分かったんです。(デビュー後)10年以上もたってから。遅いでしょ。


亡き父の笑顔

 プライベートに目を向けられることを受け入れるようになったきっかけは、昨年7月、最愛の父進さんが亡くなったことだった。

 鈴木 すごくつらいときに大勢の記者の皆さんが実家に来てくれて、自分の置かれている立場を以前より強く自覚しました。こんなに多くの人が来てくれたのに、つらいときにもきちんとした対応ができないとプロじゃない、と割り切れるようになりました。

 目を潤ませながらもしっかりした口調で当時を振り返った。父進さんは、芸能界入りを反対していた。「君の名は」出演後、少しずつ応援するようになった。鈴木には父の変化がうれしく感じられたに違いない。

 鈴木 父は入院中、看護師さんに「君の名は」の話をうれしそうに話していたんです。そんな父の笑顔を見ていたら、女優をしていることが私の私生活にもすごくいい影響を与えてくれていることに気付いたんです。それまでは女優の私と普段の私は別と思っていたんですが、父が私のことを話す顔を見ていたら…。

 デビューから十数年、女優という仕事の認識を変えるきっかけになった。

 鈴木 最初、怒ったり、泣いたり、笑ったりと本当の自分じゃない感情を人前に見せる女優という仕事に対し、少し抵抗がありました。女優って、女性の恥ずかしさみたいなものをなくしてしまう仕事かとも思いました。でもそういうことではなくて、女優のおかげで普段の私があることを10年以上たってやっと分かったんです。前までは、いつ辞めるか分からなかったし、向いていないと思ったり、演技することにテレがある時期もありました。でも今は、いろんなことをうじうじ考える私にとって、女優はいい仕事だなと思うし、ありがたいと思います。

 昨年12月、日刊スポーツ映画大賞で主演女優賞を受賞した鈴木は、授賞式に出席し、ほかの受賞者が紹介される際、満面の笑顔と拍手で祝福した。まるで自分のことのように喜んでいるようにも見えた。心のもやもやがスッキリと晴れた状態だったのかもしれない。

 鈴木 いつ辞めるかなと思いながら、もう15年になります。本当にあっという間ですよね。将来…10年先までは分からないけど、すごく自分で幸せなところは、自然に進むべき道に行けるだろうと思えていること。将来も大変だからといって休もうとは思わないし、やるべきことを一生懸命に取り組んでいると思います。仕事が大好きなんです。


休日も“仕事”

 中学時代は英語が得意で、字幕翻訳家の戸田奈津子さんのような仕事にあこがれ、映画館にもよく通っていた。高校時代に見た映画「それから」(森田芳光監督)に感激。森田監督のファンになったことが女優デビューにつながった。

 鈴木 森田監督の映画「愛と平成の色男」のオーディションの声がかかったんです。女優になりたいというよりも、あの森田監督に会えるという単純な理由で応募したら受かったんです。今の自分があるのは少女時代に映画を楽しんで見ていたからかな。

 普段の生活について質問しても、いつの間にか、女優の話になる。休日も、仕事の日よりもびっしりとスケジュールを組んで、朝から夕方までおけいこや運動をしているという。  鈴木 おけいこの内容? 内証です(笑い)。そのうち役を通してお見せできると思います。つい、やることなんでも仕事に生かせるかどうか考えちゃうんです。私としてはいずれ必要になるからやりたいんだなと自己分析してますが。

 意外なことに以前はあがりしょうだったという。

 鈴木 最近、舞台あいさつや会見も、まんまでいいと思うようになって緊張しなくなりました。でも、スポーツで点の出る仕事はあがってしまって私にできないと思う。サッカーでPKのときのキーパーを見ているだけで苦しくなります。

 オフの息抜きは料理。話題が料理に及ぶと表情が柔らいだ。

 鈴木 家に人をいっぱい呼ぶのが好きなんです。料理は得意なんですよ。自信があるのは、イタリアンか和食。すしが握れないのが悔しいくらい。ただ、アジのたたきのように、頭を何度もたたいたり、血がいっぱい出てくるのは何か残酷で苦手ですが…(笑い)

 ドラマ、映画に主演しては、存在感ある演技で各賞を受賞。着実に大女優への道を歩んでいる。

 鈴木 女優を頑張ってやっているから普段の自分が充実しているのだと思います。今はどっちも大事。でもどちらかを集中してやらないといけない時期もあると思います。

 35歳の1人の女性として、私生活の充実をも視野に入れている。

 鈴木 もっとよくなろうとは思うけど、取り繕ったりしてもっとよく見せようとは思いません。きちんとしていようと思っているだけです。

 取材中、終始、記者の目をじっと見つめながら話した。そのひとみには控えめながらも確かな自信がうかがえた。


いい空気感をもってはる

 「ブラックジャックによろしく」で共演の笑福亭鶴瓶(51) めっちゃ疲れてるときも、京香さんの顔を見ると疲れがとれます。きれいだし、いい空気感をもってはる。普通にそこにいるだけで、周りをいい空気を包むんですよね。その普通がすごいんですけど。一緒に暮らしたいくらい(笑い)。あんなスターなのに普通のいい人。でも緊張してようしゃべられへん。なんでや !  (京香さんとは)芝居であまり絡みがなかったけど、妻夫木君と一緒のオーラがあるから、演技するとうまくあうんちゃうかな。僕の希望としてはぜひ今度は、夫婦役でご一緒したいです !


 ◆「君の名は」◆ 45年5月から53年9月までの戦後復興期の中の物語。氏家真知子と後宮春樹の愛の遍歴を軸に、2人を取り巻くさまざまな群像劇が展開される。故菊田一夫さんの名作


 ◆鈴木京香(すずき・きょうか) 本名同じ。1968年(昭和43年)5月31日、宮城県生まれ。東北学院大卒。89年に映画「愛と平成の色男」で女優デビュー。ドラマは91年NHK朝の連続テレビ小説「君の名は」でヒロインを務めた後、フジテレビ「王様のレストラン」「非婚家族」などに出演。日刊スポーツ映画大賞は94年に映画「119」で新人賞、97年に「ラヂオの時間」で助演女優賞、02年「竜馬の妻とその夫と愛人」で主演女優賞を受賞。00年には「39刑法第三十九条」でブルーリボン賞主演女優賞に輝く。166センチ。血液型A。


(取材・中野由喜)

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