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2003.09.21付紙面より
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| 写真= 「趣味はプロレスにテレビゲーム、マンガ」。とても精神科医とは思えない香山さん。1人の「女」として恋愛観を話す、純粋な目にひかれてシャッターを押した。同じ80年代に青春時代を迎えた人間にとって、楽しい時間だった。懐かしさを胸に家に帰った途端、子供の顔を見て現実に戻った |
| (撮影・中村誠慈) |
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捨てるものリストを作りなさい それが大切なもの見つける近道
結婚したがらない女性の増加、急激に進む晩婚化現象−。「恋愛(結婚)異変」は確実に進む。男らしさ、女らしさの考え方も曖昧(あいまい)になり、結婚に求めるものも、男女で大きく違ってきているのではないだろうか? そこで、精神科医で現代若者の心理についての著作も多い香山リカさん(43)に登場願った。「男と女の間には深くて暗い河がある」。古い歌謡曲の一節だが、果たして今、その河は、どう流れようとしているのだろうか。
男女にズレ
生き方(あるいは生活の仕方)の選択肢が増えたせいもあるのだろうが、30代、40代で結婚しない男性、女性が増えてきている。しかし、一方で、本当は結婚はしたいのに、うまく恋愛が進まない男女も増えているのではないでしょうか?
香山 それはあるかもしれません。1つには、その世代の男女の考え方が、ちょっとズレてきているような気もします。
−−具体的には
香山 男の人は、今でも結婚について「身を固める」とか「そろそろ落ち着きたい」とか、そういう言い方をしていませんか。それに対して女の人は、結婚しても今までの仕事は続けたい。できたら、さらに頑張って向上したい。その中で、理解し合い価値観を共有できる人を求めている。だから、なかなかうまく巡り合えない。
−−なるほど、ズレている。昔はこうじゃなかったですよね
香山 女性の社会進出が急激に進んできたという背景は大きいでしょう。そういう意味で、現代は過渡期なのかもしれません。で、男の人は、まだまだ、そのことをうまく受け入れられていない。女性から言わせると遅れてる。「ちょっとボンヤリしていない?」みたいな気もする。例えば、一流といわれる企業に勤めているんだから、それでいいだろうぐらいに、あぐらをかいている男性は今でも多いんじゃないでしょうか。
−−そういえば、「きみはペット」という漫画がヒットし、テレビドラマにもなりました。これは、家でペットになっているのは男性。「いい子にしていたら家に置いてあげる」とバリバリのキャリアガールに言われる。今までの男女関係が逆転しているような話でした。癒し系の男が家に居て、働いて疲れて帰ってくるのは女性という設定ですよね
香山 そう。その前には「ソファ男」という言葉も流行しましたね。家庭で、男性は、ソファの代わりであってくれればいい。もっと女性をくつろがして欲しい。面倒なことを言うなんてとんでもないと。
−−「お茶」「風呂」だなんて男は言えないわけですよね。甲斐(かい)性というと、昔は男性のための形容詞のようでしたが、今は女性のための言葉?
香山 まぁ、そこまでは大げさかもしれませんけど、「きみはペット」は、時代の空気を確実に読んでいた。だから話題にもなりヒットしたんでしょう。今、そのくらい男女の関係も変わってきていると思います。
職場でも…
女性の急激な社会進出のことで言えば、職場でも、女性社員との接し方に、今まで以上に男性社員が気を使うケースが増えてきている。それ自体は悪いことではないのだが、何かといえば「それ、セクハラじゃないですか」と言われそうで、本音も言い出しにくい時代?
香山 そうですか(笑い)。よく聞く例ですが、仕事が終わって、本人(女性)は、例えば「英会話の学校」に行って、少しでも仕事に役立てようと思っている。で、「失礼します」と会社の上司にあいさつする。すると、上司の方は「何々ちゃん、今夜はデート? そういえば、ここんとこ、会社を出るの早いもんな。まぁ頑張って」とか声を掛けたりすると言うんですね。
もう、それで、すごくがっかりするというか、嫌悪感を覚えたりする。同じ女性として、それはよく分かる。仕事に対するモチベーションも下がる。
−−でも、男性の方は、何げに言ってるわけですよね
香山 そう。そうかもしれません。中にはサービスコメントぐらいに思ったりして。
−−それなのに、急にムッとされて、「おー、怖い」ですよ
香山 あのぅ、さすがに今の時代、「オッパイ大きいね」(笑い)とか、バカなことを職場で言う男性は少なくなったと思うんです。でも、その段階は超えても、まだまだ、女性社員に声を掛ける時、話題が男女関係の話に矮(わい)小化されているような傾向はありませんか? それはまだ変わっていない。仕事の話で、きちっとしたコミュニケーションを取ろうとしている男性が少ないんじゃないでしょうか。
あきらめる
香山さんはプロレスファンという。週の半分は関西の大学で教壇に立ち、そのほかは上京して実際に患者と対面する。さらに週末は講演と、プライベートの時間はほとんどとれないが、それでもやり繰りしてプロレスを見に行く。
香山 きっかけは、3歳の時、羽田空港でジャイアント馬場さんにぶつかってしまったんですが、優しく抱き上げられたことがあって。それ以来(笑い)。で、今はプロレスの日常と非日常というか、そのギリギリ感がたまらないんです。
黒縁のメガネの奥の瞳が途端に優しくなる。彼女にとってプロレスは癒やしのひとときなのかもしれない。実は、この黒縁のメガネも、インタビューが始まると使用する。精神科医として臨床を実際に続ける立場が、そうさせている。人一倍の気苦労があることは容易に推察された。
質問を戻す。
−−女性の社会進出。そこからくる男女のズレ。確かにぼんやりしている男性はいたとしても、女性の方は何ら問題はないのだろうか。例えば、「肩ひじ張り過ぎ」「頑張ろう、頑張ろう」とし過ぎてはいないだろうか
香山 そうかもしれません。まだまだ男性中心の社会が強く残る中で、緊張して頑張らなくちゃって、どうしてもなるんだと思うんです。
−−それが過ぎると、心のひずみにもなる
香山 本当にそうです。カウンセリングをすると、「なんとか向上したい」あるいは「このままでいいんだろうか」みたいな停滞恐怖症に陥っている女性。病気になりそうなほど苦しんでいる例もたくさん見掛けます。
−−お金も稼ぐ。ブランドのバッグも持っている。中には男性が振り返るほど美人で、自信に満ちているようにも見えるのですが
香山 そういう人でもです。みんな共通して「物じゃないんです。心の充実が欲しいんです」って言ってきます。人間関係で満たされたいと強く渇望している。
−−そういう女性が、ホストクラブに通ったりして。だからホストクラブは今や大繁盛ですね
香山 良くご存じで(笑い)。そういうところで「君って強そうに見えるけど、本当は寂しがり屋だろ」みたいなことを言われたりすると、笑いごとじゃなくコロっとしたりしてしまう。
−−どうしたらいいと…
香山 よく私は言うんですけど、欲しいもののリストばかりでなく、捨てるもののリストも作りなさいって。あきらめると言うとマイナスに聞こえますけど、女性もいろいろなものが手には入りやすくなった分、欲しい欲しいと言うだけでなく、捨てる勇気、あきらめる勇気も必要です。何もかもというのではなく、無理せず自分のスタンスを守る。そういう女性が、上手に社会の中に進出できる。本当に大切なものを見つける近道にもなる。ある意味、強い女性だとも思います。
同性の立場を思い、1つ1つの質問に真剣に答えを探していく香山さん。
「ブラックジャック(手塚治虫の漫画の主人公)のように高邁(こうまい)な理想から医学部の門をくぐったわけではないんですよ」と言いながらも、精神医学との出会いが、医師として大きく目覚めさせた。実は、彼女自身こそ、取捨選択の中、進むべき道をチョイスし、社会で強く生きてみせる女性−。
物静かで気さくで面倒見とてもいい
友人の歌人・林あまりさん(40) 2人とも大のプロレス好きで、プロレスを見にいった時、共通の知人に紹介されたのが知り合うきっかけでした。それと、芝居も2人とも興味があり誘っていただいたりして、よく見に行ったりしています。お酒も飲みますが、どちらかと言えば香山さんは物静かな方です。プロレスを見ている時も騒いだりはしないですね。余計なことは言わない、それでいて気さくで非常に気配りがきく、面倒見もとてもいい方ですよ。ほめるばっかりになっちゃいましたけど、そんなすばらしい方です。
◆「きみはペット」◆ 女性漫画誌「Kiss」(隔週誌)に00年より連載中の小川弥生の人気漫画。主人公の女性新聞記者と、ペットのような男性パートナーの生活が描かれている。今年、TBSで連続ドラマになり主人公を小雪が演じた。
◆香山(かやま)リカ 1960年(昭和35年)7月1日、札幌市生まれ。東京医科大卒。神戸芸術工科大視覚情報デザイン科助教授。学生時代から雑誌などに寄稿。その当時、編集者が付けた「リカ」をペンネームに。新聞、雑誌、テレビで社会批評、文化批評、書評など幅広く手掛け、現代人の若者の心理についての著書が多い。著書は「ぷちナショナリズム症候群」「若者の法則」「サヨナラ、あきらめない症候群」「本当はこわいフツウの人たち」「結婚幻想」「『こころの時代』解体新書」など50冊を超える。プロレス、テレビゲームについての造詣も深い。独身。
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