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第411回    谷啓  
2004.04.25付紙面より

谷啓
写真=「ガチョーン」。こちらがお願いしたら、ちょっと照れくさそうに応じてくれた谷さん。この耳に残るフレーズ、人々をひきつける動きは世代を越えて不滅です。一発芸の誕生秘話を知り大変感動しました
(撮影・矢木隆晴)

70歳過ぎてもいたずら小僧

 独特の間合いと、とぼけた表情で笑いを誘う。谷啓(72)。クレイジーキャッツのメンバーとして活躍し「ガチョーン」など数多くのギャグを編み出した。「音楽をやりながら、人を笑わせたい」。少年時代の夢を実現させた喜劇俳優は、これからも、人を笑わせ、驚かせ続けていきたいと、いたずらっ子のような顔で話した。


バカなことが楽しい

 永遠のいたずら小僧。そう呼びたくなる。人を驚かせてばかりいるからだ。

 「ホラーもののマスクを買って、被ったまま夜、家に帰るんです。普通にドアを開けて家に入ってきますから、みんなびっくりですよ。キャーってね」。

 家族のくつろぎ時間も油断できない。

 「ベランダにちぎれた腕をつるしておくんです。もちろんおもちゃですよ。ちょっとした仕掛けで、それが落ちるようにしておくんです。『おい、あれ何だ?』って指さして、みんなそっちを向いた瞬間、腕が落ちる。キャーですよ」。

 居間にいる自分の手元の操作で、腕が落ちる仕掛けをこっそりと作る。

 「準備をしている時が楽しいですねえ。クックッと笑いながら作ったりしてね。テストまでして、ヨシッてなもんですよ」。

 谷家は、トイレもおちおち行けない。「人間の等身大の人形を手に入れてね。髪もひげもボウボウに伸ばしたようにして、それをトイレにこっそり座らせて置くんです。夜に仕掛けたので、もし娘が知らないでドアを開けた時に、驚いて心臓まひにでもなったら困るんで、『トイレに誰かいるみたい』ってなことを言っておくんです。それでもギャーですから(笑い)」。

 次々と繰り出すいたずらに、家族は驚きつつも「またやられた」と楽しんでいるという。

 「面白そうだなと考えて、ワクワクするのが好きなんです。年をとり、悪ふざけをやめちゃうと、何かが止まっちゃうような気がして。そういうことを考え、準備することを面倒くせえやってなるのはいかんですよ。人から見たら、何てくだらないということをやる。これが楽しいです」。

 意味もなく、夜に一人歩きする。怪しげな人物が後ろで歩いていると、スリルを感じる。遠くに明かりのついている建物を発見すると、そこまで歩いて行く。

 「どんな人が住んでるんだろうという好奇心です。行っても分かりませんが。それを何度も繰り返す。はたから見たら老人はいかいですよねこりゃ」。

 クレイジーキャッツ時代はいたずらの全盛期。地方のジャズ喫茶の寮にメンバーがそろって到着すると、部屋のど真ん中でトランクを開ける。中は千円札の束でぎっしり。もちろん上の一枚だけ千円札で、あとは新聞紙。メンバーを一瞬驚かせたいという一心で、前日夜に準備するのだ。

 レギュラー番組の生放送中、白いボードに波形の横線をたくさん描き、カメラの前に突然出した、それを揺らすと、視聴者はテレビの故障と思って大慌て。これはスタッフに怒られた。局内のトイレの横に小学生のように立たされた。

 「あれは遊んじゃえって感じでしたね、完全に」。

 進駐軍キャンプで演奏をしていたころ、谷とハナ肇さんは車で移動した。所沢で演奏を終えて池袋への帰り道。真っ暗な畑道で前を走る谷が、突然車を止めた。ヘッドライトを消して車外に飛び出した。後ろから来たハナさんの車のヘッドライトが照らした先に、全裸の男が突然出現した。

   「着ていたものを脱ぎ捨てて、ハナちゃんの車が来た時にワッと出て行ってね。運転中に思いついちゃったんです。今考えると、それがハナちゃんの車じゃなかったら、大変なことになっていましたけどね」。


ギャグ交えジャズ

 終戦直後、中学生だった。進駐軍放送でジャズを耳にした。ミュージシャンにあこがれた。高校に入るとブラスバンドでトロンボーンを吹き、進駐軍のクラブで演奏した。同時にそのころ、米国の喜劇映画に衝撃を受けた。会津若松出身の父は「喜怒哀楽を表情に出すのは恥ずかしいこと」とよく口にしていた。

 「簡単に笑うこと、泣くことをこらえてました。それって疲れるんですよ。それに占領下でしたから、世の中も何となく抑えつけられたムードが漂っていました。だから、アメリカの喜劇映画を見た時、うっぷんを晴らすように大声で笑ってましたね」。

 「音楽をやりながら、人を笑わせたい」。自分の進むべき道が決まった。

 横浜でバンド活動を続けた。トロンボーンの高い演奏力と目をひくパフォーマンスが話題になった。東京のバンドに引き抜かれた。その後、東北弁でテネシーワルツを歌うパフォーマンスで人気だったフランキー堺さんのバンドに参加した。ところが、フランキーさんが俳優に転向。バンドはコミカル要素を封印したダンスホール専属になった。同じメンバーだった植木等(77)に「おれは面白いことがやりたいんだ」と訴えた。植木はギャグを交えながらジャズを演奏するバンドを紹介した。ハナ肇さん(享年63)が率いるクレイジーキャッツだった。

 「音楽をやりながら、人を笑わせる。これだ!と思いましたね」。植木と共に加入した。アクの強いハナさん。とにかく押しの強い植木。つかみどころのない谷啓、犬塚弘、桜井センリを加えた個性的な顔ぶれ。マジメなジャズの演奏中、突然おはやしのような演奏を交えるギャグパフォーマンスが、進駐軍のクラブでも人気を呼んだ。


チラッと出して魅了

   もっとも、周りのバンドは「ジャズを冒とくするな。バカなことはやめろ」と批判した。リーダーのハナさんは「バカヤロー、てめえらから月給もらってるわけじゃねえだろ」と応戦した。

 結成から4年後。テレビの初レギュラー「おとなの漫画」が決まった。毎日放送される帯番組。毎回ショートコントを3本ほど披露した。谷のギャグ「ガチョーン」はここで誕生する。

 「普段の会話で擬音的な言葉を口癖でよく使っていたんです。ガチョーンとか、ビローン、ムヒョ、とかね。それを放送作家の先生が『面白い、使おう』と言い出したんです」。

 気弱な男が、突然虚勢を張って前に出てくる。ところがみんなに押され、振り返ると後ろがない。こりゃだめだという顔で、開いた右手を閉じながら引いて「ガチョーン」とやる。そこで全員がずっこけるという流れだ。ほかにも、言葉に深い意味はないが、一瞬でその場をずっこけさせてしまう、動きと音のギャグを作り続けた。どれもが、瞬間芸だった。

 「植木やんみたいに、バーンと出てきて、長く人を引きつけることではかなわない。だからチラッと出てきて、何だ? ぐらいが良かったんです。ジャズ喫茶でやっていたころも、センターで植木やんがギャグを派手にやっている時、スポットライトの当たっていない所で、オーバーリアクションするのが楽しかったぐらいですから」。

 面白いこと、人が驚くことはやりたい。が、目立ちすぎないようにやる。最新の出演映画「死に花」(犬童一心監督、5月8日公開)でも、山崎努、青島幸男、宇津井健ら“芸達者”の間に入り、とぼけた味を存分に披露する。セリフや動作を、意表を突いたタイミングで繰り出す。その独特の間(ま)で、観客はずっこけるはずだ。

 「テンポに乗っているように見せかけて、ちょっとずらす。予定しているものを裏切る間合い。好きですねえ。気づかれないぐらいでやる。これがまたいいんですよ、エヘヘ」。

 やっぱりこの人は、永遠のいたずらっ子だ。


葬式は仕掛けなし

 リーダーのハナさんは94年に死去。植木は当時「これでクレイジーキャッツはおしまいです」と言った。

 「じゃあ、おれはどこまでもやってやると大それたことも考えました。燃えましたね。その後、別に何もしなかったですけど(笑い)。そういう気持ちは、不思議とだんだんと落ち着いてくるんですよね」。

 映画「死に花」は、老いてもなお生きがいを見つける男たちの奮闘が描かれている。

 「やっぱり面白いことがないかなといつも考えていたい。やったことのないことに首を突っ込んでいきたい。人を驚かせることにはこだわっていきます。自分の葬式も何か仕掛けをするかって? 一時は考えましたよ。でも死んでなお目立つっていうのはできればやめたい。それこそ小さなリアクションのように、分からないうちに消えてね。『最近見ないねえ』ってなことでいいかなあと。それが自分らしいでしょ」。


フランケンのマスク

 <マイベスト1> 今はそれほど執着していませんが、昔は怪物などのマスク集めに凝ってましたね。フランケンシュタインはロサンゼルスの専門店で注文して購入しました。ハリウッドに行くたびに、ドラキュラとか、いろんなマスクを買いましたね。フランケンシュタインは気に入っていたのですが、なにぶん、サイズが外国人向け。自分が被ると、ちんちくりんになっちゃって格好悪かったなあ。


 ◆谷啓(たに・けい) 本名渡部泰雄。1932年(昭和7年)2月22日、東京生まれ。中大中退。53年にシャープ&フラッツに加入。芸名は米俳優ダニー・ケイからとった。フランキー堺率いるシティ・スリッカーズを経て、56年にクレージー・キャッツのメンバーに。59年スタートのフジテレビ「おとなの漫画」や「シャボン玉ホリデー」に出演。「ガチョーン」「ビローン」「谷だぁー」のギャグをヒットさせる。ソロ歌手として「愛してタムレ」「あんた誰?」を発売。66年「クレージーだよ奇想天外」で映画初主演。映画は「釣りバカ日誌」シリーズに出演中。58年に和子夫人と結婚。1男3女をもうける。164センチ。血液型O。


(取材・松田秀彦)

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