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  インタビュー<日曜日のヒーロー>
 過去のインタビューは、日刊スポーツ紙面(東京本社発行分)でもご覧になれます。
 ご希望の方は→紙面バックナンバー申し込み
 なお、WEB上では、紙面より1週間遅れでの公開となります。
第502回    藤竜也  
2006.02.05付紙面より

藤竜也
写真=「最高の作品は次の作品」と言い切る藤竜也さん。今までの実績に満足することなく、日々体を鍛練し、新しい世界に思い切って飛び込んでいく。最近はやりのうわべだけのチョイモテ・オヤジとは違う、本物のオヤジに会いました
(撮影・樫山晃生)

おちゃめな哲学者

 64歳でこんなにかっこいい俳優って、ほかにいない。藤竜也は40年以上、映画の第一線で活躍してきた。スター然としたところは全くない。「映画は大学」「役者は人の心を旅する職業」と哲学者のような言葉を繰り返したかと思えば、「家では謝ってばっかりなの」とおちゃめな表情を見せる。飾ることもてらうこともない姿が、相対する者を夢中にさせる。


韓国に1カ月

 アウトローでハードボイルドなイメージを持っていた。簡単に言えば、ちょっと怖そう、とも。また別のイメージもあった。失礼にならなければいいがと思いつつ、今はやりの(?)「ちょいモテオヤジ」を思い浮かべると言ってみた。

 「『ちょいモテ』? ええっ〜! 当たってるかな〜、どうかな〜。あははははっ。自分はそういう認識は持ってないけどね。モテませんよ。でも、人に優しくされるのはだれでも好きだからね」。

 きっと「ちょい」どころじゃないんだろう。ベストジーニスト賞に選ばれたこともある。この日も自分で選んだジーンズをはいていたが、オシャレを強調するわけでもなく「こんな便利な『はきもの』ができて怠け者になっちゃうね」と照れ笑いした。思った以上に柔和な話し方は、俳優というより哲学者を思わせる。作品の選び方についても、独特の言葉で語る。

 「台本が語りかけてくれるの。これはやんなきゃだめとか、やっちゃいけないとか。だから『やりたい作品』なんてないの。台本との果たし合い。そこでやるかやらないか、できるかできないか。おもしろいかおもしろくないか、この台本には志があるかないか、とかさ。全部本が教えてくれるの」。

 台本との果たし合いの結果、選んだ最新作が、戦後日本のヒーローを描いた韓国と日本の合作映画「力道山」(3月4日公開)だ。藤は力士時代の力道山と出会い、プロレスラーになってからも支え続けた男を演じた。ソウルで1カ月に及ぶロケも行った。

 「世代的には、韓国に観光で行くには敷居が高かった。それが、この映画をやることで、1カ月行かせてもらって、ソウルの地下鉄は任せてくれというくらい歩き回りました。歩き回って足もパンパンになりました。それで居酒屋から何から、言葉が通じなくても、とにかく突貫精神で行きました。見てみたい、人の空気を吸ってみたいという思いがわいてきた。とっても韓国という国が好きになりました。本当にいろいろ勉強させてもらいました。映画は大学のようなものです」。


迷いの時代も

 こんな言葉もあった。「役者はいろいろな人の心の中を旅する職業」。藤の旅に欠かせないのは、実際に「土地を踏むこと」なのだそうだ。作品や演じる対象にゆかりのある場所に行って空気を吸えば、自然に役が近づいてくるという。

 「本をもらった時は、こんな役できるのかなといつも思います。一種おびえみたいな。心の中を探検していくと、少しずつ役へのアプローチが決まっていくんですが、その土地へ行って損することはないですね。こないだなんて、対馬まで行きましたよ。博多から対馬までのフェリー代が高くてビックリしちゃった。これだったら、グアムでもどこでも行けるんじゃないかと思ったんだけど、ここまで来たら何か得することがあるって、そっちの欲が強くなった。やっぱりね、行く行かないじゃ、全然違うの。何百万円使ったって元が取れる。教えてくれるの、この男がどんな声を出していたとか、どんなしゃべり方をしていたとか。わっーと分かる時があるの」。

 今では確立している役柄へのアプローチ法だが、たどり着くまでは、長い迷いの時代があったようだ。日活の専属のアクションスターとして60年代に60本以上に出演した。専属のため、作品を選ぶことはできない。数も多い。必然的に「こなして」いった。

 「時間もなかった。それに、若いころは何が何だか分からずにやっていた。好むと好まざるとに関係なく、ね。見失っちゃうことがあるんですよね。行き詰まっちゃう。それはきっと、自分を過信する何かがあったから見失っちゃったんだと思う」。

 それでも30歳を過ぎたころ、映画に対する姿勢が変わってくる。その理由はとてもシンプルだった。「映画がどんどん、どんどん好きになったの」。てへへっと笑うと、本当に少年のようだった。

 「自分の才能がないことが分かり始めたころから、一生懸命になった。自分はたいしたことないって、そう考えたの。そうすると、俳優っていう『人の心を旅する仕事』がどんどん楽しくなった。映画会社を離れて、自分でやっていかなきゃならなくなって、少しずつものの考え方が変わってきたんですよ」。

 そして76年には世界に衝撃を与えた、大島渚監督の「愛のコリーダ」に出演した。今では若手監督がこぞって藤を使いたがる。上海国際映画祭で男優賞を取った「村の写真集」の三原光尋監督も、カンヌに出品された「アカルイミライ」の黒沢清監督も、「力道山」のソン・ヘソン監督も、みな40代だ。

 「ありがたいね〜。ほんっと、うれしいの。『よくこんなこと思いつくなあ』なんて感心しながらやってます。若くなくても触発されるんだけどね(笑い)。人さまに感心しながら生きるのが楽しいんだよね、きっと」。

 作品の幅も広い。親分風からおちゃめなおじさんまで。若者を見守るという点は一致している。日活で「やんちゃ」してきた藤が、である。

 「はははっ、どうなんだろうね。実像とは違うんだけどね。アドバイス? 求められ…ませんよ。聞かれても間違ったこと言っちゃうしさ。でも、飲みには行きますよ。役者論なんてそんな無駄な話しないの。食いもんの話とか、あの映画がよかったなんて話とか」。


ぜい肉削いで

藤竜也

 今でこそ役柄によって自在に体重をコントロールする役者は珍しくなくなった。藤は体を作り上げる俳優のはしりだ。「愛のコリーダ」では、海外の観客にため息をつかせるほど美しい肉体を見せた。週3回のトレーニングは欠かさない。それも実はあることに対する準備だという。

 「もしかしたら『明日あたりハードボイルドの主役がくるんじゃないか』とか思ってる。きたらどうしようって思うと、用意しとかなきゃって(笑い)。いくつになっても抜けないんですよ。ただ、体を痛めてるから、古傷が痛むので、あまり痛めつけるトレーニングはしないけどね。実際に(オファーが)きたら…。自信がないです。あはははっ」。

 トレーニングとは別に続けているのが陶芸だ。10年以上になるという。陶芸を語ると、肉体や役者と結びついていく。

 「僕は抹茶茶わんが好きで、よく作るんです。単純な形なんですが、そこに作為、ぜい肉がついてるのはダメなんです。いろんなものをそぎ落としたものが美しい。人間に置き換えてもそう。いろんなものをくっつけないで、簡単に…。芝居もそう。なるべく削いで削いでいく方が好きだね。事務所も少人数でやっているのは、動きやすいからですよ」。

 妻は元女優の芦川いづみだ。どんな夫なのかと問うと。

 「いつも謝ってばっかり。『ごめん、ごめん、僕が悪うございました』って。実際、僕がいたらないことが多いから。でも、やっぱり家がほっとするかな。やっぱり、たこがいくら自由自在に空を飛んでも、ヒモをつかんでるやつの所に帰ってくるから、飛んでいられるわけで。切れちゃったら、ドブに落ちるか、どこに行くか分かんないでしょ。実はね、こういうセリフを朝のドラマで言うんです。うまいこと書くな〜と思ったね」。

 どこまでもひょうひょうとしている。しかし、これって逆に何らかの自信が裏打ちしているのかもしれないと感じたことも確か。しかし、自信ね、とつぶやいた後、真剣な表情になった。

 「おれは身の丈のものしかないんだ、という居直りです。僕はこれっぽっち以上でもなければ以下でもないという、これっぽっちに自信があると言えば、ある。どうにでもしてくれ、という自信はある」。

 最強の自信だ。


圧倒的存在感

 「力道山」で共演した韓国俳優ソル・ギョング(37) 藤さんがいるだけで現場の雰囲気が変わります。存在が現場に緊張感を持たせるのです。撮影所に藤さんを訪ねてセリフの読み合わせをしてもらったこともあって、今でもとても感謝していますし、思い出に残っています。私にとって藤さんはとても尊敬する役者さんなので、今回共演させてもらえたことはとてもうれしく、勉強になりました。


 ◆藤竜也(ふじ・たつや) 本名・伊藤龍也。1941年(昭和16年)8月27日、北京生まれ。日大芸術学部演劇科に在学中、日活入り。62年「望郷の海」でデビュー。「野良猫ロック」「不良番長」シリーズなど、アクション映画で人気に。72年にフリーになる。ドラマ「時間ですよ」にも出演。76年「愛のコリーダ」で国際的に知られるようになった。ほかに「化身」「KAMATAKI」「塀の中の懲りない面々」「海猿」など。放送中のNHK連続ドラマ「風のハルカ」にも出演中。血液型O。妻との間に1男。


(取材・小林千穂)

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