【第5回】
脳の特効薬「くよくよしない」
最近、厳しい経済状況を反映してか“癒やし系”が大はやりである。音楽から芸能人の分類にまで使われる。それは無意識に健脳術を求めている表れではないのか、と推察するのが、浜松医科大の高田明和名誉教授だ。日本生理学会、臨床血液学会などの評議員を務め、脳に関する著作も多い。
「社会が厳しくなると、甘えを許さない雰囲気になります。しかし甘えは本能といえるほど心の奥に根付いているもので、癒やしを求めることが、甘えの代償行為になっている、と思えるのですよ」。大脳生理学からみても、甘える感覚を満たすことは健脳術にとって重要なこと、と高田名誉教授はとらえている。
“くよくよしない”ことも、脳の最大の健康法になる。ストレスホルモンとして知られるコルチゾル(副腎皮質ホルモン)は、通常は多く放出されると脳が調節してホルモン量を一定にする仕組みがある。「このフィードバックがうまくいかない人もいるのです。子供の時に虐待を受けた人、激しい恐怖などに遭遇した人の中に、視床下部などのフィードバック系に異常が起こっているケースがみられます」(高田名誉教授)という。
ベトナム帰還兵を対象とした米エール大の調査では、激しい恐怖のため戦場に長くいた人ほど海馬部分(大脳辺縁系)が小さくなっていたという結果を発表している。海馬が小さい人ほどトラウマ(心的外傷)症状が出て、正常な生活が送れなくなる傾向が強かったという。
くよくよしない、といっても性格もあり、簡単ではなさそうだが「以前のことを次々に思い出すことを念を継ぐといいますが、これを極力しないことです。そう決めれば案外、脳を守る特効薬になります」(高田名誉教授)。
脳細胞にとっていい環境、悪い環境は、食事や運動、生活習慣にも大いに関係する。また生活習慣病と脳とのかかわりも近年、指摘されるようになった。そのことは次回で。
【ジャーナリスト 小野隆司】
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