【第23回】
日本の豚の過半数に抗体
予防接種 日本脳炎
プ〜ン。寝ている時に耳元で聞こえる蚊の羽音は実に不愉快なモノだ。蚊は夏の虫なのでちょっと季節はずれな話題だが、実はこの蚊の中に日本脳炎の運び屋がいるかもしれない。蚊が豚の中で増えたウイルスを持ち、人を刺すことで感染するのが日本脳炎だ。
日本脳炎の潜伏期間は6〜16日。高熱、おう吐、意識障害、けいれんなどの症状が出る、恐ろしい病気だ。だが、92年頃から発症数は急激に減り、02年の報告は8例のみ。人と人の間で感染しないこと、予防接種には副反応の危険性もあるため「はしか、DPTよりは必要性は低いのでは…」と、一律の定期接種を疑問視する専門家もいる。
一方、83年に日本脳炎の子供を診察した、東京都葛飾区の永寿堂医院、松永貞一医師は、自らの経験からワクチン接種を勧めている。「千葉県北部に住むA君(当時5歳6カ月)は元気な男の子でしたが、乳児の時から湿疹(しん)があり予防接種は何も受けていなかった。夏休みに2日間埼玉県の従兄の家を訪れ、その約10日後から37度代の微熱が出ました。翌日には熱が39度に上がり、頭が痛いと泣き出した。さらに翌日の夜になると全身性の硬直性けいれんが起き、緊急入院。急性脳炎と診断されました。入院13日目に、日本脳炎であることが判明。脳の状態を改善するため必死の治療を行い、発病後1週間で意識は回復しましたが左側に軽いまひが残りました」。
この30年間、日本中から、田んぼや畑が減り、農薬散布などで日本脳炎を運ぶコガタアカイエカという蚊も減った。最近は、西日本にしか患者が発生しておらず、日本脳炎はもうなくなった病気のようにも見える。
「しかし、厚生労働省の調査によると、実は今も日本の豚の50〜80%が、日本脳炎の抗体を持っており、ウイルスは根絶されていません。条件が揃うことで再び流行もありえます。一旦発症すると重症化しやすく後遺症が残ったり、命にもかかわったりする病気ですから、僕は接種を勧めています」と松永医師は説明する。
賛成、反対どちらにも説得力があり、親にも判断の難しいワクチンの1つだ。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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