【第39回】
感染しても出産・子育ては可能
性感染症 エイズ
「検査の結果ですが、奥さんはHIVに感染しています」。新婚半年のS子さん(26)は最近妊娠が分かって、毎日うきうきした日々を送っていた。産婦人科で「母子感染予防のためにエイズ検査を受けてください」と言われ、なんの疑いもなく検査をしたのだった。S子さんは「えっ、私、夫以外とは…」と言いかけて目の前がぐるぐると回った気がした。
銀行に勤めるA男さんとS子さんは、1年間の交際後に結婚。A男さんはまじめで誠実な人柄。S子さんにとって、A男さんは初めて性的な関係を持った男性だ。S子さんは夫の帰宅を待ち、検査結果を伝えた。A男さんは驚いた様子で目を見開き、押し黙ったあとに「君と知り合う前に交際していた女性が1人いた。彼女からの感染だと思う。君にもおなかの赤ちゃんにも申し訳ない」と肩を落とした。
厚生労働省の研究班によると、妊娠時の検査で感染が判明するケースは99年以降増加し、年間100人以上だ。感染者総数も1万2000人に達する可能性があると発表されている。「エイズは不特定多数の人と性的な交渉を持つ人の病気ではないのです。愛しているから大丈夫なのではありません。エイズはセックスをするすべての人の病気なのです」と話すのは、神奈川・厚木市立病院泌尿器科の岩室紳也医師だ。
現在、妊婦がエイズ検査を受けることはほぼ常識だ。感染していても、出産前に抗HIV薬を投与し、出産は帝王切開、授乳をしなければ、感染していない子供を持つことは可能なのだ。
A男さん夫妻は互いの気持ちを確認し合った上で、内科医や産婦人科医とも慎重な話し合いをし、出産に向けて協力態勢をつくった。S子さんは帝王切開で無事出産し、今は子育てに追われる幸せな毎日だ。
残念なことにエイズを人ごとと誤解している人が多いため、HIV感染者はジワジワと増加している。しかし、もし感染しても適切な薬物治療を受け、無理しないことで発症を抑え、普通の生活を送る人も増えている。
【ジャーナリスト 月崎時央】
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