【第25回】
美しい文字を書くゆえの職業病
書痙(しょけい)(上)
ストレスが大きく関係した心の問題が身体疾患となって現れてくる「心身症」。体のどの部位に出てくるかとなると、その人の弱いところに出てくると思われる。神経・筋肉系の心身症としては緊張型頭痛、片頭痛、自律神経失調症、振戦、失声など数多いが、書痙もその1つである。
書痙とは文字を書くときだけに生じる運動障害。文字を書こうとすると手がふるえて書きにくくなってしまう。かつては作家や書道家など、文字を書くことを職業とする人に多いといわれたこともあったが、それらの人々だけとは限らない。
「事務職の方、それもきれいな文字を書く事務職の方がなりやすい傾向がみられます」と、九段坂病院(東京都千代田区九段南)心療内科の臨床心理士・森下勇氏は言う。「この書痙は手がふるえたりして文字が書きにくいのですから、服を着たり、ボタンをとめたりといった動作も難しいと思うでしょう。ところが、不思議なことにそのような動作のときには起こりませんし、物を書くのでも、メモ書きのときには症状は起きないのです」。
やはり、文字を美しく書こうというときに起こるようで、美しい文字を書く人の職業病といえよう。
では、文字を美しく書く人は誰もが書痙になるのかというと、そんなことは全くない。実際に書痙を引き起こした方々に聞くと、その始まりは、ごくごく細いなことからなのである。
「冠婚葬祭などでは、記帳が当たり前ですよね。その時、隣で記帳している人の筆先に、何げなく目をやり、自分とは比較にならないくらい美しい文字にギクッ。その途端、筆が動かなくなったというケースはよくあります」(森下氏)。
このタイプは、性格的に神経質で完全癖がある。加えて、野心的、対人関係で緊張しやすい人に多いといわれている。具体的には「失感情言語症(失感症)といって、感情表現がうまくできない人に多いですね」と、森下氏は指摘する。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
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