【第34回】
無意識に母親の愛情求めやせる
摂食障害(下)
食行動の異常が起きる摂食障害には、若い女性を中心に急増中の「拒食症」「過食症」がある。この治療に効果的な治療として、多くの患者やその家族の強い支持を得ているのが「再養育療法」。心理療法の柱として再養育療法を行っているのは九段坂病院(東京都千代田区九段南)心療内科の山岡昌之部長だ。この療法の考案者であり、その信頼は絶大で、受診の予約をとるのに1年待ちの状況である。
山岡部長が摂食障害の患者を多く診療するようになったのは81年ごろから。当時の治療の主流は“親とも会わせない”ものだった。ところが、10代、20代の若い女性の患者たちは、山岡部長に「お母さんに会いたい!」としきりに懇願したのだ。「お母さんにダッコされたいとか、お母さんと一緒に眠りたいとか言うので、そうしてもらいなさい、と言ったんです。すると、それを実行した患者さんたちが、どんどん治っていったのです」。
山岡部長はそこに1つのパターンを発見した。それは、患者が“幼児返り”をし、それに対して母親が上手に対応できた症例ほど治りが早く、完全に普通の人に戻った。これが今日の「再養育療法」である。
食べては吐くの過食がやめられないA子さん(25)は、山岡部長を受診。母親はキャリアウーマンで、出産後に仕事の疲れからうつ病に−。A子さんは5歳まで祖母に育てられた。幼いながら、母親を苦しませてはいけないと、A子さんは「会社を休んでほしい」と思っても口には出さなかった。良い子で育っていった。
「このように、乳幼児期に母親の情緒応答性が十分に発揮できない状況で育てられた子供は、潜在意識下に母親の愛情に対する渇望が抑圧されています。そのため、やせて体が小さくなると、乳幼児期に満たされなかった母性を再び強く求めるようになり、もっと小さくなればもっと母親が自分に向いてくれるという気持ちが無意識的に働き、強いやせ願望を持つのでしょう」。
再養育療法は、母子間の信頼関係を再構築していくものである。A子さんは4年半後、生き生きとした女性に戻った。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
|