【第39回】
心理的影響きわめて大きい
円形脱毛症(上)
高校3年生のA男君(17)は、髪の長さが気になり始め、いつもの理髪店へ。そこで、円形脱毛症を指摘された。円形脱毛症と知ってしまうと気になるもので、A男君は10日後に皮膚科を受診。10円硬貨大の円形脱毛巣は1カ所から数カ所に増えていた。
スチーマーを使った温熱療法や薬を使った治療が行われたものの、脱毛巣は次第に拡大。そのうち、A男君は物がのみ込みにくい嚥(えん)下困難をも訴えるようになり、内科を受診した。医師は“神経性嚥下困難”と診断し、A男君は入院することになった。医師は心理的影響がきわめて大きいと考えたのである。
入院中の心理療法からA男君の置かれている生活環境が浮かび上がってきた。A男君は両親と祖父母の5人で暮らしていた。父は小さな部品工場を経営していた。バブル崩壊後は父の小さな工場にも倒産の波が押し寄せた。資金繰りに苦しむ父は、家に戻ると家族に当たり散らすように…。
そのうち両親は離婚。倒産はまぬがれたものの、父の外での嫌なことのはけ口はA男さんに向けられた。殴る蹴る! そんな毎日が続いた。「入院できて、ほっとした」と、A男君はもらした。入院して5日目のことだった。
そして、2週間後。医師はA男君の父、祖父母とともに、担任の教師を交えて話し合いの時間を持ち、どんなにA男君が張りつめた生活を送ってきたか、理解してもらおうとした。父親との話し合いは数回に及び、やっと理解してもらえたため、A男君は無事退院となった。
A男君の円形脱毛症、嚥下困難は外来で治療を続けた。順調に回復し、A男君の治療は終了。治療をスタートして7カ月の月日が流れていた。バブル崩壊後の厳しさは弱者へ弱者へとシワ寄せが行く。高校生のA男君はその被害者の1人なのである。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
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