【第55回】
性的欲求不満で歩けなくなった
ヒステリー
「ヒステリー」と言われると、多くの人は「甲高い声を上げて怒りをぶちまける」といったヒステリックな状態を思い描くだろう。ここらあたりに、一般に理解されているヒステリーと心の病としてのヒステリーには違いがある。
今日、ヒステリーという言葉は精神医学用語としては使われなくなった。代わりに使われているのが「解離性障害」と「転換性障害」である。解離性障害は、ある期間の記憶を失うなど記憶障害が伴う。重症のケースでは自分の過去を忘れたり、別の人格が現れる多重人格になってしまうこともある。
一方、転換性障害は、身体の神経系に全く異常がないのに、急にけいれんを起こして倒れたり、歩けなくなったり、声が出なくなったりしてしまう。目立つ身体の症状を引き起こしてしまうのである。
C子さん(26)は3年前に結婚し、専業主婦として、幸せそうな結婚生活を営んでいた。ところが、ある朝、目覚めるとどうしてかベットから起き上がれない。救急車で病院に運ばれ、精密検査を受けたが、異常はなかった。原因に精神問題があると判断され、精神科に紹介された。
診察が進むにつれ、C子さんには夫婦生活のないことが明らかになった。ご主人は極端なマザコンで、C子さんにも母親と同じように世話を焼いてもらいたがり、C子さんの体には全く触れようとしなかった。C子さんはその不満を口に出せず、1人で悩み続けているうちに歩けなくなってしまった。
C子さんは性的欲求不満が原因となった転換性障害と診断された。このような患者への接し方はケースバイケースで、マニュアルがない。ただ、治療では深層心理にまで踏み込む必要がある。薬物療法、心理療法、ときには催眠療法が導入されることもある。
とにかく、自分の気持ちを抑えがちな人がなりやすいし、心の動きをコントロールできない人もなりやすい。だから、自分の気持ちを表現することを心がけ、物事を冷静に判断する力を身につけることが重要である。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
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