【第66回】
本人気付かない特殊なケースも
燃えつき症候群(下)
ある日を境に、まるで火が燃え尽きるかのように仕事への意欲をなくしてしまう。これがうつ病のひとつ「燃え尽き症候群」の典型的なケースである。だが、典型例とはだいぶ異なるケースも存在する。
B男さん(33)はフリーのカメラマン。3度の飯を抜いても撮影している方がいいというほどあって、あっという間に売れっ子カメラマンに。スケジュールは土曜、日曜もなくギッシリ詰まって、B男さんは休みなく撮り続けた。若くエネルギッシュな上に、大好きな仕事ではあっても、こうまで仕事をすると、体も悲鳴をあげる。
B男さんは、11年目にその“悲鳴”に気付いた。夜十分に睡眠がとれなくなってしまったのだ。それでも仕事をしていると、仕事中に睡魔に襲われ、注文通りの写真が撮れなくなってきたのだ。
友人の編集者が見るに見かねてB男さんを精神科へ連れて行った。B男さんはいわゆる仕事中毒。ワーカホリックといわれる仕事依存症。ただ、B男さんの場合は「燃え尽き症候群」で、心身共にすでに燃え尽きてしまっているのに、本人はそれに気付かない。だから、まだまだ仕事をしないではいられないのである。
すでに燃え尽きていることを精神科医は十分にカウンセリングを行って理解してもらうようにしていった。もちろん、理解の上にたって仕事を休み、治療に専念。当初は仕事をしないことでの不安がいら立ちに結びつき、自動車事故を引き起こしたこともあった。
過興奮の状態を乗り越えるために、B男さんが状況をさらに認識するとともに、薬物治療も加えた。抗不安薬と睡眠導入薬が処方された。回復は早く、治療開始1カ月後にはB男さんは落ち着いてきて、そして、4カ月後には治療が終了した。そのとき、B男さんは、「よく世間が見えるようになりました」と、主治医に言った。B男さんは病気になる前と大きく違っていた。休日はきちっと取って、その日は仕事を忘れ、のんびりと過ごすようになっていたのだ。
【ジャーナリスト 松井宏夫】
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